カイロプラクティックの原理&最新理論



カイロプラクティックの定義

神経筋骨格系の障害とそれが及ぼす健康全般への影響を診断、治療、予防する専門職であり、関節のアジャストメント(調整)もしくはマニピュレーションを含む徒手治療を特徴とする。(世界保健機関ガイドライン)


カイロプラクティックの原理(原則)

カイロプラクティックは「人間には、自ら体の不調(病気)を回復したり、健康を維持するための自己修復力(自然治癒力)が備わっており、それらは主に神経系の働きによって行われている」という原理、前提の元に成り立っています。

神経系は脳からの指令を身体の各部位に伝え、また身体の各部位からの情報を脳に伝える役割を担う器官です。

筋肉の伸縮、血液やリンパ液の流れ、内臓の動き、免疫機能、姿勢の維持、そして心のはたらきでさえも、制御・統合しているのは、主に脳を司令塔とする神経系(中枢神経・脊髄神経・自律神経)の働きによるものです。

 

つまり、私たち人間は、神経系の働きが常に良好であるからこそ、外部・内部環境の変化に適応することができると共に、体の不調を回復したり、健康を維持すことが出来るのです。

そして、カイロプラクティック(整体ではありません)では、神経系の働きのアンバランスが健康を損なう原因になると捉えています。

どういうことかと言うと、機械的なストレス、化学的なストレス、心理的なストレスなどよって、神経が「過剰*になるか「過小*な状態になると、神経系の働きはアンバランスとなり、痛みなどの不快な症状が発生したり、人間に元々備わっている自己修復力や身体能力を十分に発揮できなくなる...という訳です。

*生理学の言葉で「過剰」とは、神経細胞膜の活動電位の閾値が下がり、神経が興奮し易い状態を意味します。また「過小」とは、活動電位の閾値が上がり神経が興奮し難い状態を意味します。(難しいという方は、過剰=神経が興奮し過ぎ、過小=神経がリラックスし過ぎ、とお考えください)


例えば、自律神経(内臓、血管、腺などを自動的に調節する神経)には交感神経(活動、興奮)と副交換神経(抑制、リラックス)とがあり、状況に応じて、どちらか一方が優位になることで体を調節しています。

交感神経が優位(興奮)になり過ぎると血流障害が起こり、細胞は酸素不足となり活性酸素(体のサビ)が増えます。→痛み、炎症、免疫力低下(リンパ球減少)による症状

副交感神経が優位(リラックス)になり過ぎると、血流が増加し過ぎることで、静脈内で鬱血が起こり、有害物質が溜まり易くなります。→痛み、炎症、免疫力過剰(リンパ球過剰)による症状

こうした医学・科学的根拠からも、神経の働きをバランスよく保つことが、健康を維持したり、様々な身体能力を十分に発揮するうえでの重要な「鍵」と言えるのです。


そして、カイロプラクティックは、神経系の働き(バランス)を正常化することを目的(原則)とする治療法なのです。


20世紀以前のカイロプラクティックの理論

背骨(脊柱)の中には脊髄という神経のパイプが入っていて、脊髄から枝分かれした末梢神経が、上下の骨の隙間を通過しています。


カイロプラクティックは1895年に創始されましたが、今ほど科学が発達していなかった当時は、背骨の位置がズレて背骨の隙間を通っている部分(上の図の部分)で神経が圧迫されることで、痛みなどの症状や病気が起こると考えていました。

その為、初期のカイロプラクティックでは、構造的な異常である背骨の位置のズレ(変位)を元に戻す(部分での神経の圧迫を減少させる)という発想に基づいた矯正治療(例えば下の画像の様な、背骨を押したり捻じってポキッと音を鳴らすタイプの調整・矯正方法)が主流でした。


伝統的な骨盤の矯正法(画像は90年代当時の当院での調整)


伝統的な頸椎の矯正法(画像は90年代当時の当院での調整)

しかしながら、その後の科学の進歩(特にCT、MRIなどの画像診断装置による研究)によって、矯正の対象となる生理的な範囲内での骨のゆがみや位置のズレ程度では、神経は圧迫されないという事が分かりました。

また、MRIなどの画像診断装置を用いた研究により、椎間板のヘルニアや軟骨の変形、背骨や骨盤のゆがみなどの「構造上の異常」の殆どは、腰痛などの痛みを起こす直接的な原因ではなかったという事も判明しています。

「背骨の位置がズレることで神経が圧迫される...」という以前のカイロの説明は分かり易いこともあって、カイロプラクティック=背骨ゆがみやズレを矯正する療法との認識が、世間では広く浸透しています。

また、今日でも一般向けに「カイロプラクティックとは、背骨のゆがみを調整し・・」という説明がされている事も少なくありません。しかしながら、プロフェショナルの世界では適切な表現ではありません。

EBM(科学的根拠に基づく医療)を重視している近代のカイロプラクティック業界では、「背骨の変位、ズレ、ゆがみ→神経根圧迫病因説」は(あっても稀なケースとして)ほぼ否定されています。

もちろん、カイロプラクティックの治療自体に効果があることについては、海外の様々な研究からも分かっています。

但し、それは背骨や骨盤などのゆがみや変位、ズレを直したからではありません(構造的な異常の殆どは、痛みの原因ではありませんから)。



21世紀のカイロプラクティック理論

構造的な異常機能的な異常へのパラダイム・シフト


カイロプラクティックは合理主義(科学)の欧米で発展して来た治療法です。

そのため、医学や科学の進歩に伴い、カイロプラクティックの理論や治療技術というのも変化(進化)しています。

また今日の医学界では、X線やMRI画像に映し出される構造的な異常(椎間板の変性、軟骨の変形)の殆どが、痛みの原因ではなかったということが判明しています。

そしてカイロプラクティックなどの骨格を矯正する療法の効果というのは、背骨や骨盤などのゆがみやズレを直したことによるものでは無いことが分かって来ています。骨盤のゆがみ・背骨のゆがみの科学的検証




今日の脳・神経科学から観たカイロプラクティックのアジャストメント(調整)に伴う効果の作用機序というのは 背骨などの関節に動きを与えることで、関節とその周囲組織にある神経の感覚センサー(固有受容器)の誤作動状態がリセットされ、神経系(脳・脊髄)の働きが正常化することによるもの」との認識、示唆がなされています。

初期のカイロプラクティックが脊椎(背骨や骨盤など)に着目し、それらに対して施術を行ったことは間違いではなかったのですが、説明が間違っていた(ゆがみやズレを直して神経の圧迫を無くしたから効果があったと勘違いしていた)のです。

近年の機能的脳画像法(PET、fMRI、SPETC)を用いた研究などから、関節などの神経の感覚センサー(固有受容器)に適切な刺激(情報)を入力し、脳にはたらきかけると、脊髄神経(知覚神経、運動神経)、自律神経(交感神経、副交感神経)の働きのアンバランスな状態が是正され、慢性的な痛みや心的ストレスなどが改善したり、神経の可塑性によって脳の神経ネットワークを再構築できることが徐々に分かってきました。

また、近年の臨床研究では、椎間板のへルニアや変性、関節軟骨の変形、背骨や骨盤などの歪みが原因だと考えられていた症状の多くが、関節などにある神経の感覚センサー(固有受容器)から、脳や脊髄に適切な刺激(情報)を入力することで、消失したり改善することも分かって来ています。

そうしたことから、脳・神経科学に基づく今世紀のカイロプラクティックの最前線では、身体の歪みなどの構造的な問題を改善するアプローチ関節の動きや神経の働き方などの機能的な問題を改善するアプローチへと、シフト・チェンジがされています。

喩えるのなら、天動説 地動説(コペルニクス)への転換です。

今世紀以前のカイロプラクティックでは、触診による経験的な評価やX線写真などの画像による形状の評価が中心でしたが、科学技術の進歩により、表面筋電計や赤外線サーモグラフィー、脈拍変動計などの測定機器が開発され、神経生理学的な機能異常を客観的に計測、評価することが可能となりました。

画像:表面筋電計、赤外線サーモグラフィーによる神経生理機能の分析画像

こうした理論について、具体的な例を挙げて簡単に説明すると、例えば、背骨や骨盤などの調整を試みたところ、痛みの症状が改善したとします。

でも実際には、身体のゆがみや骨の変位(ズレ)が直ったから症状が改善したという訳ではありません。

それは、主に関節に動きを与えた際に、関節包とその周辺組織にある神経の感覚センサー(固有受容器)の誤作動状態がリセットされ、それにより不活性状態にあった痛みを抑制する太い神経線維が活性化されて、脳に痛みを伝えている細い神経線維からの信号を抑制したことによるものなのです。

 

また、カイロ治療(アジャストメント)によって、身体のゆがみや不良姿勢が改善したとします。

でもそれは、手で背骨を押して曲がっている背骨を真っ直ぐにしたからでも、首や腰などをポキポキと捻って、骨のズレを元に戻したことで改善している訳ではありません。

実際には、背骨などの関節周囲にある神経の感覚センサー(固有受容器)が適切に刺激されることで、小脳や大脳の機能のアンバランスが是正され、脳によるコントロールを受けている筋肉の緊張バランスが正常化することで、身体のゆがみや姿勢が改善しているという訳なのです。

 

仮に、背骨の右側の関節の感覚センサー(固有受容器)を刺激したとすれば、それは左側の大脳半球の神経細胞(基本的に左の大脳は体の右半身を、右の大脳は体の左半身をコントロールしています)、または同側(右側)の小脳の神経細胞に影響を与えているということになります。

そのため、最先端のカイロプラクティックでは、背骨などの関節の調整の他にも、皮膚、筋肉、目、耳、舌などの感覚センサーに適切な刺激(情報)を入力することで、脳の神経細胞を賦活させ、神経系(脳代謝)のアンバランスを是正する方法を用いています。

カイロプラクティックの創始者D.D.パーマーは、「神経のトーン(周波数)の乱れは、背骨のゆがみ、変位の原因になる」とも指摘していました。

しかし、構造的な異常が全盛の20世紀の医学界の中で、何時しか背骨のゆがみや変位(構造)のみが一人歩きし、働き(機能)は置き去りにされて来ました。

機能的な異常への転換は、最先端であると同時に、19世紀末に創始されたカイロプラクティックの原点に回帰するものだとも言えるでしょう。

機能的な問題へのアプローチには「カイロプラクティック神経学(機能神経学とも)」と言う専門分野があります。これは最新の脳科学や神経科学の研究成果をカイロプラクティックの臨床現場に取り入れて行くものです。

カイロプラクティック神経学では、脳の機能低下や亢進による神経系(脳代謝)のアンバランスが健康上の様々な問題や症状を起こす原因と捉え、末梢部(五感の様々な感覚受容器)に適切な刺激(情報)を与えることで、低下(または亢進)した脳の機能を再構築させることを促すアプローチを行います。

参考:以下の動画は、カイロプラクティック神経学が米国ABCニュースで特集された時のものです。また、IQ180の天才でカイロ機能神経学のスペシャリストであるDr Ted Carrick(画像の人物)は、来日講演の際に「我々カイロプラクターは、骨の変位(ゆがみ、ズレ)を矯正すべきではない」とコメントしています。

Chiropractic Neurology: Dr Carrick on ABC News

 

当院では、カイロプラクティック神経学の理論を取り入れたアプローチを行っています。(そのため、当院の施術方法は一般的なカイロとは異なります)


脳(神経細胞)と感覚センサー(固有受容器)との関係について

神経系の司令塔である脳(神経細胞)が生存するための条件は、燃料である酸素とグルコース(ATPを産生)、そして「刺激」です。

ここでいう刺激とは、目、耳、口、関節や筋肉、皮膚などの神経終末にある神経の感覚センサー(固有受容器)から、中枢である脳や脊髄に伝えられる様々な情報のことです。

つまり、脳(神経細胞)は、末梢(身体)に命令を送り、体を制御・統合していると同時に、末梢(身体)からの刺激(感覚情報)に依存することで生きているのという訳です。



補足:酸素、グルコース、刺激が不足すると・・

酸素、グルコース、刺激のいずれかが不足すると、タンパク質の合成が低下して神経細胞の変性や壊死を招きます。順を追って説明すると、

先ず、ミトコンドリアでのATPの産生が減少します。

細胞膜のNaポンプの働きが低下して細胞内にNaイオンが流入し、膨張するために核は移動します。

嫌気性解糖が進行して、乳酸やピルビン酸が増えるために活性酸素が増加します。

脱分極化が顕著となり、神経は興奮し易くなるとともに、活性酸素によって遺伝子(DNA、RNA)の損傷が起こり易くなります。

結果、神経細胞の変性、壊死を招きます。



脳の神経細胞は、これら感覚センサー(固有受容器)からの刺激がなければ、機能低下(やがては死)を招いてしまいますが、逆に言えば、これらの感覚センサーに適切な刺激(情報)を与えることで、機能が低下している脳の神経細胞を活性化し、脊髄神経(知覚神経、運動神経)、自律神経(交感神経、副交感神経)の働きのアンバランスな状態を改善することが出来る」ということです。 


そして、身体の中心部に位置している脊柱(背骨や骨盤など)の関節と周囲組織には、神経の感覚センサー(固有受容器)が最も数多く存在しています。

カイロプラクティックのアジャストメント(調整)では、これらの感覚センサーに刺激(情報)を与えることで、神経細胞を効率的に活性化させることが出来ます。



関節機能障害(動きの異常)について

骨と骨とが連結している部位を関節と言いますが、殆どの関節は関節包という袋に覆われています(下図)。

 

関節包には固有受容器という神経の感覚センサーがあり、関節の位置関係、動きの速度、圧力などを感知して、それらの情報を脳や脊髄に伝えています。

脳や脊髄はそれら神経(求心性感覚ニューロン)から伝えられた情報を瞬時に分析して、適切な命令を神経(遠心性運動ニューロン)に伝え、筋肉や靭帯を収縮させたり、伸張させることで、身体をスムーズに動かしたり、姿勢を維持したりしています。

つまり、身体を負担なくスムーズに動かしたり、バランスのとれた姿勢を維持するためには、関節包にある受容器(感覚センサー)が正常に作動している必要があるという訳です。

ところが、身体に強い衝撃が加わる、デスクワークなどでの長時間の同一姿勢、反復動作の繰り返し、運動のし過ぎ、妊娠、疲労の蓄積、心理的なストレス(筋肉や靭帯の張力が低下する)などの誘引によって、背骨や骨盤などの関節に過剰な負荷が加わることにより、関節内部の正常な動き(※注)が損なわれて関節包にある神経の感覚センサー(固有受容器)が誤作動を起こしてしまうことがあります。

この様な状態のことを関節機能障害 と言います。

こうした関節の機能的な異常というのは、構造(形状や位置関係)的な異常を映し出すための検査機器であるX線やCT、MRIなどの画像では確認することは出来ません(整形外科等の医療機関で、多くの腰痛が治らない最大の理由はここにあります)

※注:関節内部には遊びの動き(副運動)があります。クルマのハンドルにある遊び(左右のグラグラ)の様なもので、この遊びの動き(0.5~3mm)があることで、普段私たちは身体を無理なくスムーズに動かすことが出来ます。



関節内部の動きが損なわれることによって関節包にある感覚センサー(受容器タイプⅠ)に誤作動状態になると、関節包が過緊張状態となり、それに共なって関節周囲の軟部組織(靭帯、筋膜、腱膜、骨膜、筋肉)までもが過剰に緊張するようになります。こうした現象を関節静的反射といいます。


関節受容器の種類 分布 性質
タイプⅠ 関節包 静的受容器 閾値が低く順応が遅い
タイプⅡ 関節包と脂肪体 動的受容器 閾値が低く順応が速い
タイプⅢ 関節靭帯 動的受容器 閾値が高く順応が遅い
タイプⅣ(a,b) 関節包と関節靭帯 侵害受容器 閾値が高く順応しない

 

関節静的反射によって周囲組織が緊張すると、次第に痛みなどの不快な情報に関わる別のタイプの感覚センサー(侵害性の受容器タイプⅣ=a格子状神経叢、b自由神経終末)の感受性が高まることで、痛み、凝り、しびれ等が出現するようになります。

こうした関節機能障害による痛みなどの症状は、筋肉・筋膜・腱膜・骨膜の組織介して、機能障害のある部位とは遠く離れた同側の部位に症状を引き起こす(例えば、骨盤の右仙腸関節の機能障害が右肩や右腕に痛みを引き起こす)という特徴があります。

また、タイプⅠのセンサーの作動不良によって、痛みを抑制する太い神経線維(有髄繊維)が不活性状態となるため、脳の痛み中枢の感受性が高まり、痛みなどの不快感をより一層感じ易くなります。

さらに、太い神経線維が不活性な状態では、脳の自律神経が興奮状態(交感神経優位)になる傾向があります。その結果、交感神経の興奮→血流障害→脳への酸素不足による脳神経細胞の機能低下→慢性的な痛みの原因にもなります。


こうした中枢神経系への影響は、自律神経系と相互関係にある内分泌系(ホルモン)や免疫系の働きにも悪影響を及ぼす可能性があります。

 


補足:サブラクセーションに関するよくある誤解

カイロプラクティックでは伝統的に、背骨や骨盤などの関節(運動分節)の異常な箇所のことをサブラクセーションと呼んでいます。

このサブラクセーションですが、少々厄介なワードです。(翻訳機やカイロプラクティックに詳しくない人による書物や記事では、誤りが多いです)

整形外科(西洋医学)用語のサブラクセーションとは、亜脱臼、すなわち脱臼まではしていないが、骨の位置が変位している状態(見た目の変位やズレ)を意味します。

初期の時代のカイロプラクティックでは、骨の変位という意味合いも含まれていた様ですが、科学の進歩に伴い、今日では、その概念は大きく変化しています。

2005年に刊行されたWHO(世界保健機関)のガイドラインによる、カイロプラクティック・サブラクセーション用語の最新解説では、「本質的に機能的なもの」と明記されており、また整形外科用語のサブラクセーション=亜脱臼( 見た目の骨の変位やズレ⇒構造的な問題)とは、全く意味合いの異なるものであると記されています。

つまり、カイロプラクティック用語のサブラクセーションとは、見た目の歪みや骨の位置の変位ではなく、本質的に「関節の機能(動き=関節の副運動)ならびに神経の機能(働き=受容器の反応による神経伝達)に悪影響を与えている部位」を意味しています。

見た目の骨のゆがみ、変位、ズレ(亜脱臼)≠カイロプラクティック・サブラクセーションという訳です。見た目の骨の変位やズレの有無に関係なく、サブラクセーションは存在するのです。

カイロプラクティック・サブラクセーションが発生している関節では、通常、関節内部の遊びの動きに異常(副運動Ⅰ、Ⅱの減少)が検出されます(時には脊髄反射による筋肉への影響によって、骨の位置(配列)がズレた様に見えることもあります)。また、多くの場合で、関節周囲の軟部組織の緊張や圧痛、知覚異常、浮腫、熱感、冷感などを伴うことがあります。

このように、関節の運動学的な異常+神経生理学的な異常を伴った複合的な状態がカイロプラクティックで言うサブラクセーションなのです。

当ホームページでは、一般の方が整形外科用語のサブラクセーション≒亜脱臼(見た目の骨の変位やズレ)と混同することを避けるため、関節機能障害(動きの異常)として表示しています。

今日、EBMが重視されているヨーロッパのカイロプラクティックでは、サブラクセーションは歴史的な概念とされ、公の場では使用されておらず、広義的な意味を持つ「関節機能障害(Joint dysfunction)」という用語が採用されています。EBMを重視している当院のHPもそれに準じています。

 


科学的に実証されているカイロプラクティックのアジャストメント(調整)の神経生理的な効果

関節可動域の改善と痛みの緩解、皮膚の疼痛耐性閾値の上昇、脊柱筋郡の圧痛耐性閾値の上昇、筋肉の電気的活動レベルと緊張の低下、血流と皮膚温度の変化、血圧の変化、メラトニン分泌の上昇、ベータ・エンドルフィンの上昇、サブスタンスPの上昇、好中球(レスピラトリーバースト)の推進、瞳孔直径のコントロールなど

カイロプラクティックの作用機序については、完全には解明されていません。しかしながら、科学的に未定である事と科学的に否定されている事とは同意語ではありません。今後の科学の進歩によって、詳細は明らかにされるでしょう。


補足(資料)

①:米国コロラド大学のSuh博士らの研究チームによる動物実験では、神経に25mmHg(10円玉程度)の圧力(重さ)が加わることで、神経の機能が60%低下することが判明しています。そして神経の機能が40%程であっても痛み(自覚症状)として感じない場合もあることも判明しています。

これは関節の正常な動きが妨げられることで、椎間関節周囲の静脈がうっ血し、それによる神経根への圧力の増加が、神経の機能に悪影響を与える可能性が高いことを裏付けています(注意:骨の位置がズレて神経を直接圧迫するのではありません)。また、関節に機能障害が発生してから痛みなどの自覚症状が現れるまでには、時間差(個人差)のあることを示唆しています。


②:椎間関節の動きを制限すると、非常に早い期間で関節軟骨や周囲組織(椎間板、靭帯、筋肉など)の退行変性(不活動性萎縮)が始まることが、動物実験によって確認されています。

これは、関節の固有受容器の不活性状態により、関節(末梢)からの求心性刺激が脳(中枢)へ伝わらなくなることで、脳が関節を不必要なものとして判断している可能性が高い(脳・神経の可塑性)と考えられます。関節機能障害のアジャストメント(調整)は、関節と周囲組織の老化(退行変性)の進行を防ぐ効果があることを示唆しています。


③:最近の研究では、関節機能に異常が起こると、関節周囲の細胞から、痛みに関係する神経伝達物質(ブラジキニンなどの発痛物質)が血液中に放出されている事が分かっています。また痛みの伝達には、脊髄を通って脳に痛みを伝える知覚神経以外のルートがある事が分かっており、細胞から放出された神経伝達物質が、シナプスをせずに、直接、脳の神経細胞の受容体に入るものがあることが分かっています(非シナプス性拡散性神経伝達/NDN)。

こうしたことから、関節機能障害(動きの異常)よる痛みなどの不快な情報が、神経繊維以外にも、血液や脳脊髄液などを介して脳にまで届いていることが示唆されるという訳です。

またNDNによる非シナプス性の神経伝達物質は脳内で拡散するために、シナプス性の神経伝達によって過敏となった痛覚中枢に、さらなる痛みを感じさせるとともに、周辺の神経細胞にも痛みの情報を伝達させると考えられています。このことは、関節機能障害に起因する関連痛の発生機序や精神面への影響を理解するうえで重要です。


補足


※上記はWHOのガイドライン(2005年)、また近年の研究報告や機能神経学などを踏まえた比較的新しい内容となっています。また作用機序については完全には解明されていないため、上記の理論は(現時点での有力な)仮説とお考え下さい。

カイロプラクティックに関わらず、科学の進歩に伴い医療の理論や方法論は変わります。カイロも100年以上の歴史がありますので、既刊の書籍等とは異なる内容もあると思います。(このページの内容も、数日後には改訂している可能性もあります)

また、上記は総論的なものです。神経系の働きを正常化する手段として、カイロには様々なテクニック・システム(100種類以上)があります(WHO基準のカイロプラクターでも、治療院によって施術方法が違うのはそのためです)。各テクニックの理論や方法というのは各論になります。

尚、カイロプラクティックは医学、科学的な理論&研究に裏付けられることによって発展して来た補完代替医療であり、個人の主観や経験から行われている一般的な整体とは本質的に異なります。