あなたの痛みが治らない最大の理由とは


1.痛みの原因(診断)がそもそも間違っている

整形外科などの医療機関で治療を受けても良くならない、あまり改善しないという場合、その最大の理由になっていると考えられることがあります。

腰痛などの痛みの原因として多くの人が考えるのが、椎間板ヘルニアや関節軟骨の変形、脊椎分離、脊柱管狭窄、背骨や骨盤のゆがみなどの「構造的な異常」です。

整形外科(西洋医学)では、基本的に、構造的な異常が痛みの原因であると考えています。そのため、通常の診療では、X線やMRIの画像に映し出された構造的な異常を元に病名を付け、それらを対称とした治療(保存療法・外科的手術)を行っています。

また整体などの民間療法では、背骨や骨盤のゆがみである構造的(解剖学的)な異常が痛みの原因だと考えており、ゆがみを直そうした施術を行っています。

治療や施術をする、謂わばプロの多くが、そうした説明をしている訳ですから、患者さんの殆どは「それらが原因なんだ」だと信じています。当院でも「私の骨盤はゆがんでいますか?」などの質問をよく受けます。

しかしながら、科学的には既に画像上に映し出される構造的(形状的)な異常の多くは、痛みの原因ではないとういことが判明しているのです。


 

2005年11月~読売新聞で連載された「医療ルネッサンス」で、「腰痛のケア」が特集されました。その中で、日本の腰痛治療の権威である、福島県立医科大学教授(現同大学学長)の菊池臣一先生は、以下のコメントをしています。

 

「画像や問診から病名が付けられていますが、実は、画像と原因が明確に一致する例は少ないのです。腰痛の無い人でも、画像診断をすると3割の人に椎間板ヘルニアが見つかります。逆に、腰痛を訴えていても、半数近くの人には画像上の異常が見つからない。


原因が特定できる腰痛は15パーセント未満・・省略・・腰痛はありふれた症状ながら、実はよく分かっていないのです。」

 

 

以下に、その証拠となる研究報告を、いくつか紹介して行きます。

 

 

アメリカの医師Boosらの研究チ-ムは椎間板ヘルニアと診断された腰痛と下肢痛のある患者46名と年齢・性別・職業が一致する健常者46名の腰部をMRIで撮影し、研究内容を知らない放射線の専門医に診断させました。

結果、健常者の76%に椎間板ヘルニアが、健常者の85%に椎間板の変性が確認されました。そして、椎間板のヘルニアは健常者にも同様に見られるものであり、腰痛や下肢痛の直接的な原因ではないと結論付けらました。

腰痛の世界的権威でもあるBoos医師は、「我々(医師)は画像に映し出されたものを治療するのではなく、患者を治療しなければならない」とコメントしています。

尚、この研究は整形外科分野のノーベル賞とされる、国際腰痛学会のボルボ賞を受賞しています。

参考:国際腰痛学会/ボルボ賞受賞研究.1995年


 

日本の医師である中島らの研究チームは、20~70歳の首(頚部)に痛みのない人達(1211人)の頸部を、MRIを使用して調べました。

その結果、87.6パーセントの人の頚部に椎間板のヘルニアや変性が確認されました。

参考文献:医学誌Spine.2015



 

デンマークの医師Sorensenらの研究チームは、60歳の住民666名を対象に撮影された胸部と腰部のレントゲン写真を分析しました。
結果、腰痛経験者358名のうちの58%、腰痛経験の無い者308名のうちの57.5%に変形性脊椎症(軟骨の変形)が確認されています。

参考文献:医学誌Spine.1985



 

アメリカのBarzouhi医師らの研究班は、腰椎椎間板ヘルニアと診断された下肢に痛みのある患者283名を、手術するグループと、手術を行わないで保存療法を行うグループとに無作為に振り分け、その後1年間の追跡調査を行いました。

 

全患者の内、84%は良好な成績を示し、両者の成績に殆んど差は見られませんでした。また1年後にMRIを使用してヘルニアの有無(状態)を調べたところ、ヘルニアの残存率と患者の成績(改善率)とに関係性は見られませんでした。

 

参考文献:New England J Medcine, 368,2013.

 


 

アメリカのJensen医師らの研究班は、腰痛や下肢痛の経験のない20~80歳まで、計98名の腰部MRI画像を撮影し、そこに腰痛と下肢痛のある患者のMRI画像27枚を混ぜ、実験の事を知らない2名の放射線専門医に読影させました。

 

結果、健常者の52パーセントに椎間板の膨隆が 、 27パーセントに椎間板の突出が、1パーセントに椎間板の脱出が見つかりました。「椎間板の異常やヘルニアという状態は、腰痛・下肢痛の無い健常者でも普通に見られるもの」と結論付けられました。

 

参考文献:New England J  Medcine, 331,1994.

 


 

アメリカのBigos医師らの研究班は、腰痛のない健康診断受診者208名、急性腰痛の発症者207名、半年以上の慢性腰痛患者200名を対象に撮影された腰部X線写真を、2名の整形外科医によって読影させ、それぞれの異常所見の検出率を比較しました。

 

結果、脊椎分離症(腰痛のない健康診断受診者16.3%、急性腰痛発症者14.0%、慢性腰痛患者7.5%)、以下同順に、脊椎すべり症(4.3%、2.9%、4.0%)、脊椎軟骨の退行変化(27.8%、24.2%、36.5%)がそれぞれ確認されており、X線画像で確認される背骨の変化は、腰痛と直接関係がないということが証明されています。

 

参考文献:Clinical,Orthopedic,283,1992.

 


 

米国ベイラー医科大学のモーズリー博士の研究チームは、変形性膝関節症の患者10人に対して以下の実験を行いました。

10人中2人には、関節内視鏡手術(変形した関節軟骨を取り除き、関節内を洗浄する)を行い、3人には関節内の洗浄のみ行いました。また残り5人には、メスにより皮膚に傷をつけるだけの偽手術を行いました。

実験を受けた10人には事前に実験の内容を知らせた上、どれを行なうかまでは知らさせませんでした(手術は全身麻酔で行われるため、手術を行った後もどれが行われたのかは自分では分からない)。

6カ月後に効果を判定したところ、10人全てが同様に改善しており、10人全員が効果に満足していました。

この研究報告により、膝関節の関節内視鏡手術の科学的根拠は否定されることとなりました。

参考文献:American journal of medicin.1996



 

アメリカの医学者Levangieは、腰痛患者144名と健常者138名の骨盤を計測して腰痛との因果関係を調べました。
その結果、見た目の骨盤のゆがみ(非対称)と腰痛と間に因果関係はないということが判明しました。

参考文献:医学誌Spine.1999


 

 

アメリカの医学者Fullnloveの研究報告では、腰痛患者200名と健常者200名の背骨のレントゲン写真を撮影し、比較をしたところ、背骨のゆがみ(側弯)は腰痛患者の30%に、健常者の45.5%に確認されています。結果、背骨のゆがみと腰痛との間に因果関係はないということが判明しました。

参考文献:医学誌Radiology.1957



こうした問答無用の証拠があるものの(こうした事実を知っているのにも関わらず)、整形外科などの日本の医療機関の多くでは、現在も構造的な異常に偏重した診断とそれに基づいた治療が行われていますのが現状です。

ここで誤解を招かないために言っておきますが、画像診断そのものは、鑑別や病巣の把握には必要なものであり、否定するものではありません。

また、真性の椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの構造的な異常が原因である場合も勿論ありますから、詳細な検査を行い、画像と症状とが完全に一致し、構造的な異常が原因であることが明確となれば、それに基づく治療を行うことで効果はあるでしょう。

しかし、原因がよく分からないのに、画像診断から便宜上の病名を付けて、症状を抑えるための治療(薬、物療、リハビリ、マッサージなど)を行っていたとして、どこまで良くなるものでしょうか?

増してや、それで手術でもしたら・・・

もしも現在、あなたが「構造的な異常とそれに基づく治療」を受けていても回復・改善する兆しが見られないというのであれば、一度、あなたの固定観念(過去の医学常識)を脇に置くべきかもしれません。

では、構造的な異常が原因ではないとしたら、原因は何なのでしょう?

例えば、最近よく言われている筋肉や筋膜の張りや緊張が原因でしょうか?

 

2.強い力で筋肉をもんだり押したりしている。

筋肉が緊張していればその部位の血流が悪くなりますから、確かに痛みは発生し易くなります。

そうしたことから、マッサージや揉みほぐしを受けたり、何かしらの器具を使用してセルフケアをしている人も多いと思います。

さするぐらいの軽いものであれば良いのですが、痛みを伴う様な加える力が強過ぎる場合には問題です…

筋肉などを強く押したり揉むと、その刺激に対する体の防御反応によって、脳内では鎮痛物資(オピオイド)が産出されます。そのために一時的に痛みを感じなくなったり、軽減したと感じることがあります(ペインサイエンスの分野ではこれをDNICと言います)。

SNSなどで見かける激痛整体、強刺激のマッサージの類は基本的にこの仕組みを利用しています。(業者が知っていてやっているかは?ですが)

また人によっては強い刺激が加わるとエンドルフィンやドーパミンなどの脳内ホルモンが分泌されることで、覚醒作用のある交感神経が刺激され、痛た気持ちいいと感じたり、直後にすっきりした感じがしたりもします。そのため繰り返し受けているうちにクセになり、次第に強い刺激でないと効いた気がしないと感じる様になります。

しかし、強い刺激の鎮痛効果というのは一時的なものであり、それで痛みそのものが解消したり筋肉が柔らかくなることは医学的にはありません(筋肉は粘土ではありませんから強く揉んでも、長時間揉んでも柔らかくなるものではありません)。

それどころか、強い刺激を頻繁に受け続けているとむしろ筋肉は固くなってしまいます。また脳による痛みへの感作が起こることで、痛みに対して体が過敏に反応し易くなります。

強い力で揉む、押すなどすると当然、その部分の毛細血管や神経などの組織が微細損傷を受けるために炎症状態になります(所謂、揉み返しというのはこれです)。こうして発生した損傷の修復を繰り返す度に、筋肉などの周囲の組織は瘢痕を伴い徐々に固くなって行きます。

この様な理由から、強い刺激での施術というのは短期的には楽になる場合もあるのですが、長期的には症状の悪化や慢性化を招く可能性が高い行為だと言えるのです。喩えるなら、その場の快感を得られるが後が怖い麻薬と同じ様なものです。

因みに、筋肉を緊張させたり弛緩させているのは筋肉そのものではなく、脳を司令塔とした神経系です。そして慢性的な痛みを解消したり筋肉の緊張を緩めるには、交感神経の興奮を抑えてリラックス作用のある副交感神経を優位にさせる必要があります。

 

尚、筋肉の疲労感の多くは、筋組織に乳酸などの老廃物が溜まったからではなく、脳(神経系)の疲労に起因するものであることが、最近の脳科学の研究から分かっています。

 

3.ストレッチや運動(筋トレ)をすれば治ると思っている

筋肉や筋膜組織はマッサージ(手技)では伸ばすことは出来ません(恒久的に筋膜を1%伸ばすには、800㎏以上の負荷が必要であることが、実験により確認されています)。

また、全身麻酔をした状態(神経を麻痺させた状態)下では、筋肉や筋膜をストレッチをしても(物質の限界を超える力で、組織そのものを破壊しない限り)組織は伸びないということが、実験により確認されています。

こうした事実に照らし合わせると、筋肉や筋膜が柔らかくなる、緊張が緩むという現象というのは、実際には、それらの組織をもんだり、伸ばしたりしたからではなく(筋肉・筋膜は粘土や小麦粉ではありません)、主に組織に関係する神経(交感神経繊維)のはたらきの変化によるものだということが解ります。

脳・神経科学に基づく最新のカイロプラクティックでは、痛みの原因の多くは脳を司令塔とする「神経の機能的な異常」が原因であると捉えています。

筋肉や筋膜へのアプローチの有効性は否定しませんが、神経系の機能が正常でなければ根本的な解決にはなりません。


次に、多くの痛みの原因について、少し説明します。