筋トレ、体操、ストレッチの問題点



運動(筋トレ、体操、ストレッチ)をすれば治る?


「治すためには、どんな運動が効果的ですか?」 当院を訪れた患者さんからは、こうした類の質問や相談をよく受けます。

そうした方々の気持ちはよく分かります。以前には私も患者さん達に対して、「腹筋・背筋を鍛えましょう」「大腰筋を強化しましょう」「インナーマッスル(体幹筋)を強化しましょう」「ストレッチを」...などの指導やアドバイスを積極的に行っていました。

しかし、30年余りの臨床経験を積んだ現在では「痛みがあるうちは無理にやらない方がいいですよ」と基本的にアドバイスしています。

近頃はテレビ番組やユーチューブ、書籍等で、様々な運動法や体操が紹介されています。また病院や治療院でも当然のように体操など指導したりています。(因みに、最近は病院で体操指導することも多いのでが、理由は保険の点数が付く様になったからです)

もちろん、こうした運動や体操を行うことで痛みなどの症状が消失したり、明らかに改善したのであれば、その人はそれで問題はありません。

しかし、こうした運動や体操を行っても効果が見られない人も結構いますし、中にはテレビ番組やユーチューブで観た筋トレや体操、ストレッチなどを行ってみたところ、反って痛みやシビレの症状が悪化してしまった..という人達が当院には多数訪れています。


筋力や柔軟性の低下が痛みの原因??

世の中、筋力を増強したり身体が柔軟になれば痛みが消失、改善するという話が当然のことの様にまかり通っています。

ところが、実際には筋力の強いスポーツ選手、身体の柔らかいバレリーナでも、腰痛などに悩まされている人達は大勢います。(それが原因で辞める人もいます)

一方、日頃スポーツや運動とは無縁の人、柔軟性の少ない身体の固い人であっても、腰痛などに悩むこともなく日常生活を過ごしている人達が、私たちの周りには「ごく普通」にいます。

何かおかしい?つじつまが合わないと思いませんか?

臨床的に見れば、「筋力が弱いから痛みがある」というよりも「痛みがあるために日常生活動作が十分に出来ず、その結果、運動不足で筋力が弱くなっている」というケースの方が圧倒的に多いのではないでしょうか。

何より、痛みがあるために運動をすることに支障があるのに、運動をして痛みを治すというのでは、本末転倒ではないでしょうか?

また、ストレッチ系の体操などの愛好者の中には、筋肉や筋膜組織を伸張し過ぎたことで組織を損傷したり、靭帯が伸び過ぎたことで、関節の支持力が不安定になって痛みが発生している人がいます。

そうした人の中には、身体が固いことが痛みの原因だと思い込み、さらにストレッチ運動を続けることで、痛めた組織が修復するのを妨げ(治りかけた傷口を自分で広げてしまう様なもの)、いつまでも治らずに慢性化しているケースも見られます。

 


もちろん、筋力があったり、体が柔軟であることの利点もあります。

例えば、同じ作業をした場合、筋肉量(筋力)が多い方が疲労するまでの時間は長くなります。

柔軟性がある人は身体の可動域が大きな分、日常生活では行わない動作を強いられた時に怪我をするリスクは少なくなるでしょう。(土俵際など)


そうしたことからも、その人の仕事や日常生活にとって必要なの筋肉量を維持したり、ある程度の柔軟性を保つことの意義について異論はありません。


参考資料


平成16年度に厚生労働省により実施された「介護予防モデル事業」では、要介護1,2の人(449人)に対して、3ヶ月間の「筋肉トレーニング」「栄養指導」「口腔ケア」「閉じこもり予防」「フットケア」の5種類のプログラムを用意し、介護度の悪化を防いで自立につなげるための調査が行われました。

調査結果は、385人(64人がリタイヤ)のうち、介護予防モデル事業の実施前後で要介護度一次判定を行った98人の5種類のプログラムの平均改善率が43.9%、現状維持が39.8%、事業の実施前よりも悪化したが16.3%であったことが報告されました。

さらに事業プログラムの中の「筋力トレーニング」に注目すると、「握力」「膝伸展力」「開眼片足立ち」など、11項目が調査されました。

調査結果は、膝伸展力の改善が74.8%と最も高い改善率を示しました。一方で、右握力の悪化(低下)が39.4%、開眼片足立ちの悪化が31.1%など悪化率が改善率を上回る項目などもありました。「筋力トレーニング」の平均改善率は57.2%、悪化率は27.4%、現状維持が15.4%でした。

・・この調査報告で注目すべきなのは、改善したという面ではなく、プロの指導下にも関わらず、筋力トレーニングを行ったことで、およそ4人に1人が悪化している(健康の質が以前よりも低下している)という点です。

 

関節に機能障害がある場合、積極的に運動を行うと、症状の悪化・慢性化を招きます。

当院では、運動しても改善しない人、運動をしたことで反って悪化したという人達の多くに関節機能障害(動きの異常)が存在しているものと捉えています。

カイロプラクティックではかなり以前から認識されていましたが、最近では西洋医学(医師)らの臨床研究などからも、外傷や器質的な疾患以外の痛みや凝り、シビレなどの症状の多くが、骨盤(仙腸関節)などの関節に発生した機能障害に起因しているということが分かっています。

機能障害が発生している関節では、副運動と呼ばれる関節包内部にある関節面の0.5~3ミリの動き(自動車のハンドルにある左右の遊びの様なもの)が損なわれており、向かい合う関節面が滑らかに動くことが困難な状態になっています。同時に、関節にある神経の感覚センサー(受容器)が誤作動状態となっているために、脊髄での反射によって関節周囲の組織(関節包、靭帯、筋膜、腱膜、骨膜)が緊張した状態になっています。

つまり、関節機能障害が発生している部位では、自分で運動をした時に「既に関節内部が正常に動かせない状態」になっています。だからこそ問題になるという訳なのです。

運動した時に正常に動かなくなっているものを、自らで運動をして正常に動かすというのは無茶な話ですし、正常に動かなくなっている関節を繰り返し動かすことで、関節や周囲の組織により大きな負担を与えてしまい、反って痛みを悪化させてしまうケースも少なくありません。

また、指圧や揉みほぐしなどの強い圧力や刺激が関節に加えられることにより、関節にある神経の感覚センサー(受容器タイプⅠ)が反応して、組織を過剰に緊張させ、関節内部にロックがかかり、関節機能障害がより強固なものになってしまうこともあります。

その為、仙腸関節などの機能的な異常を修正するには、感覚センサー(固有受容器タイプⅠ)を反応させない様な、非常にソフトで繊細な技術を要します。

関節機能障害の程度が軽ければ、ストレッチや体操を行うことで緊張している筋肉が一時的に緩み、痛みや凝りなどが軽減される場合もありますが、ばらくすると直ぐに元の状態に戻ってしまいます。

中でも骨盤にある仙腸関節の機能障害が及ぼす影響(関節組織の静的反射や緊張連鎖)について知らないと、こうした不適切な対処を(医療従事者も含め)してしまいます。

特にスポーツを行っている人は、関節ならびに周囲組織の感覚センサー(固有受容器)の誤作動をリセットした上で行うべきであり、機能的な異常が改善するまでの間は、積極的な運動はなるべく控えることが望ましいと言えます。

たとえその運動が、腰痛改善などに良いとされているもの(○〇ストレッチ、○○体操、水泳、水中ウォーキング、他)であってもです。


「治療法」と「予防法」とを混同しないことが肝要

当院では上記の理由から、関節機能障害が原因だと考えられる患者さんに対しては、調整後の1~2週間は痛みを誘発する様な運動を積極的に行うことを避けると共に、関節への負荷が少ない姿勢をとる様に心掛ける事を勧めています。(関節の機能障害が改善した段階で、必要があれば予防のための体操などのアドバイスをしています)

そして、そうした方が患者さんの経過も良好な場合が多いものです。これは30年余りの臨床経験(10万人超)から導き出された結論です。

また、先にも書きましたが、関節機能障害のある箇所を強く押したり、揉むなどの行為、ストレッチ、引っ張る(牽引)というのは逆効果になりますので注意が必要です。

仙腸関節などに機能障害があれば、先ずはそれらを修正します。すると神経系(脳・脊髄)の働きのアンバランス状態が是正されるのに従い、今まで痛みを伴っていた動作や運動をしても徐々に痛みが出現しなくなって来ます。

そして、以前よりも積極的に動けるようになることで、特別なトレーニングなどせずとも、(日常生活動作で)痛みのために低下した筋力は徐々に回復して来ます。

そうした時点で、必要な人は適度な筋力トレーニング、体操、ストレッチなどを行うと、それらは身体にとってプラスに働き、再発予防や健康の維持・増進、パフォーマンスの向上に役立ちます。

最後にまとめとして、筋トレやストレッチそのものが良くないという事ではありません。治療法と予防法とを履き違えない様にすることが「肝要」なのです。