身体の歪みは善か悪か?



自然界に完全なる左右対称はありません。

森羅万象、自然界に完全なる左右対称なものは存在しません。
もしも左右対称なものがあるとすれば、それは人工的に作られたものです。(例えば インドのタージ・マハル宮殿の様に)

人間の身体は通常、心臓は体の左側に、肝臓は体の右側にそれぞれ1つずつあります。(既に、これらの時点で人間の身体というのは左右が対称ではありません) また、肝臓は臓器の中では最も重量があるため、人間の身体というのは(背骨を中心に)左側よりも右側の方が少し重く出来ています。

そのため、人間の歩行時の身体の重心線というのは背骨の真ん中よりも少しだけ左側にあります。 また皆さんご承知の通り、人それぞれに利き腕や利き足がありますし、利き目というのもあります。

・・左右で使い方が異なるのですから、左右で筋肉のバランスが多少異なっていたり、身体に多少のゆがみがあるのはごく普通の事とだと言えるでしょう。
陸上競技場のトラックは左周り(反時計回り)、野球の走塁も左周り、スケート競技場のリンクも左周りです。

何故かというと、洋の東西を問わず、大多数の人は左足が軸足であるために左周り(反時計周り)の方が回り易いからです。(第一回目の近代オリンピックが開催された際、トラックは右周りでした。しかし、コーナーで転倒する選手が続出したために、第二回大会からは左周りに変更され、現在に至るそうです)

こうした事例と照らし合せてみると、自然界(生物界)では、左右対称でないことの方が自然であって、対称であることの方が不自然になります。筆者は今までに数万人の背骨や骨盤を拝見して来ましたが、程度の差はあるものの、左右が全く対称だった人には今まで1度も出会ったことはありません。

最近では、テレビ番組や健康誌などの影響もあり、見た目の身体のゆがみや身体的なバランスと健康との関係に関心を持たれる方が増えています。
カイロプラクターである筆者としては、皆さんが姿勢と健康、脊椎(背骨や骨盤)と健康との関係について、関心を持たれることは喜ばしいことです。

しかし、見た目にゆがみや曲がりがある= 全て悪いものだと決め付けてしまう最近の風潮というのは、いささか行き過ぎた感があり、「健康」という観点から見ると危険性さえもはらんでいると筆者は捉えています。


身体の歪みは、人間が持つ適応力のひとつ

人間には適応力(許容力)があります。例えば身体のある部分の機能が損なわれたり、負担がかかる状況があれば、他の部分を上手く使ってそれを補うことで、その人間(個人)が最も効率的に活動することが出来る様に適応します。

筆者は、見た目の身体のゆがみや曲がりというのは、人間の持つ適応能力のひとつであると捉えています。つまり、身体がゆがむから(脳が身体をゆがませるから)こそ人間は快適に活動することが出来るという訳です。

例えば、腰部に慢性的な椎間板ヘルニアのある人でも、背骨を左右どちらかに傾き気味な姿勢をとれば(大抵は無意識的にそうなっています)、痛みやシビレを感じずに日常生活を送れる人も多いのです。

これはヘルニアによって神経が圧迫されることを避けるための(脳による)適応姿勢です。そしてヘルニアが無くなれば、何もせずとも自然に元の姿勢に戻ります。

また骨粗鬆症などで背骨(胸椎)に圧迫骨折を起こした高齢者の背中は、治癒後に前に曲がった姿勢になりますが、このゆがみ(曲がり)は骨折によって狭くなった神経の通り道を広げるための(脳による)適応姿勢だと言えます。ですから

圧迫骨折の経験のある人の背中は曲がっては見えますが、歩くことはもちろん、普通に日常生活を送ることが出来る人が多いのです。

こうした方々の見た目の背骨のゆがみや曲がりを矯正する(真っ直ぐにする)ことに、臨床上、何の意義があるのでしょうか?

また「ゆがみ=悪い」という考えのもとに、こうした方々の(見た目の)ゆがみや曲がりを矯正したとすれば、どうなってしまうのでしょうか?

そしてこれは椎間板ヘルニアや圧迫骨折を持つ人に限った話ではなく、全ての人についても言えることなのです。


「見た目に歪んでいる、歪んでいない」の安易な矯正は危険です。

最近は美容、容姿目的で骨盤や背骨の見た目のゆがみを矯正したいと考える人も多く、またそうした矯正を謳った整体やサロンが松本市内でも見受けられます。

そうした矯正術の効果の程はさておき、仮にそうした見た目のゆがみが、その人の健康を維持するための脳による適応反応であるならば、何が何でも真っ直ぐにしようとする容姿目的の無理やりな骨格矯正というのは、結果的に(せっかくの)脳による適応反応を崩すことになってしまうでしょう。

もちろん、見た目の身体のゆがみの中の一部には(例えば重度の側湾症の様に)神経や内蔵などに悪影響を与え、健康を害する可能性のあるものもあります。

見た目の身体のゆがみや曲がりには、健康にとって良くないものもあれば、そうではないもの(その人にとっては、健康状態を維持するために必要なゆがみや曲がり)もあります。

ですから、何が何でもゆがみを直す(真っ直ぐにする)という安易な発想ではなく、その人にとって最もバランスがとれた状態にすることが大切なのです。

人間(生物)の最大の特性は、許容性(ファジー)にあるのですから。