2023.1.27.    

 農業委員会では毎年2回、「農業委員会だより」という広報誌を発行しています。委員や事務局がそれぞれ手分けをして誌面を作成します。今、7月号の準備に入ったところです。今回2ページ分を自分が丸ごともらって原稿を書いていますが、それがなかなかいい出来ばえ(?)なのでここに紹介しちゃいます(笑)。但し「ぶどう通信」用に内容をやや変えてウソも入っています(笑々)。

 都会の方にはなかなか想像がつきにくいと思いますが、田舎では「農業人口が減っている」ことだけでなく、「農地(田や畑や果樹園)そのものの存在自体がけっこう危うい」という状況が表面化しつつあります。誰の所有かわからない農地とか、亡くなった方が所有している農地とか、所有者がいても都会に住んでいてここにはいない農地とか、この先法定相続人がいなくなることが確定している農地とか、共有者がいっぱいいて売買や賃貸の話がほとんどできない農地とかそんなのがいろいろ。それらの多くは、今は地縁血縁ある誰かが耕作しているからいいのですが、モンダイはその人がリタイアした後です。何しろ売買契約や賃貸契約が成立しないので、そこで誰かが何かをやりたいと思ってもそれは無理、ってことで、結果誰も耕作しない遊休荒廃地が増えつつあるという現実があります。農林水産省のある統計によると日本全体の農地の筆数の約20%がそういうモンダイ農地及びその予備軍だというけれどそれホントか??。でもそれではいけないよね、ってことでいろんな法整備が進んでいます。農林系国会議員及び農林水産省そっち系お役人のオシゴトです。以下、その実態と対策をご報告いたします。ご興味ある方最後までどうぞ。田舎地域の実態のひとつの側面をご理解いただけると思います。



「農地の有効利用についてあれこれ」

 
 およそ3年前、遊休化している農地を借り受けて産地パワーアップ事業を活用して葡萄棚を新設したいという要望がありました。そもそも所有者は誰?、と調べてみると驚くべきことがわかりました。一見すると1筆と思われる農地は実は2筆に分かれていました。1筆は、名前はわかるけれどもどこのどなたかが全く不明という“所有者不明農地”。もう1筆は、既に亡くなった方が所有しているという“相続未登記農地”。


 どうする所有者不明農地
 隣接の相続未登記農地の名義人の戸籍簿・除籍簿を先代へ先代へと丹念に遡っていくと予想通りにこのお名前に辿りつきました。嘉永時代のお生まれの方ということでなんと江戸時代です。明治時代にこの土地を取得して以来、130年以上それっきりで今に至っているという事実が判明しました。この農地に法定相続人がいるのかいないのか、いないのであればいないことを証明しないといけない、その上で利用権を設定するという、農業委員会事務局担当氏の果てしなく長い道のりがここから始まりました。所有者不明の公告⇒農地中間管理機構への通知⇒県知事への裁定の申請⇒知事による公告というプロセスを経て利用権設定の裁定に辿り着くまでに1年半を要しました。

 
どうなる相続未登記農地
 相続未登記農地では何が困るのか。誰かが借りたい意思があっても借りることができないからです。貸し借りの関係において貸す人が存在しないので当たり前です。財産の相続においては相続税の申告と同時に、農地については法務局への相続登記と農業委員会への届出が必要です。ところが農地の相続登記には費用と手間がかかる上に罰則が特にないという理由で手続きを行わないという人が少なくないようです。将来にわたって農地を有効に活用するためには、“貸す”側の人もしくは“売る”側の人がちゃんと存在している(=所有者がはっきりしている)という当たり前のことがもっと広く認識されなくてはいけないと思います。尚、農地の相続登記は、令和6年4月1日より義務化されます。

 
農地を手放したい人もいる
 農地を相続したものの、管理ができないという理由でその農地を手放したいと考える人が増えているようです。私の担当地域でもそういった悩みを持つ方がいらっしゃいました。望まずに農地を相続せざるを得なかったという、さらに将来またその子へと相続せざるを得ないという負担感。相続人が非農家であればその気持ちはわかる気がします。そこで一定の要件のもとで、その農地を国庫に帰属させることができる制度が新たに創設されたところです(「相続土地国庫帰属制度」。令和5年4月27日施行)。これによって農地の管理不全化の予防が多少でも図られればと期待をするものです。

 
共有名義の農地はあとあと大変 
 農地を共有名義にしている事例が存在します。仮に5人とします。それぞれに相続という事態が発生した際に1人の子だけに相続することを続けていけば永久に5人で済みます。ところが共同で所有することは単独で所有することに比べて自己所有意識がやや薄いのでしょうか、その後相続ほったらかしで権利所有者がネズミ算式に増えていくという事例が見られます。長野市のある地区で、1筆の権利者数200人超という農地がありました。しかも、「そこに自分が権利を有する土地があることを知らなかった」という人が多数あったというから驚き桃の木山椒の木(古い!)。この段階になると誰もその農地をいじることもさわることも不可能です。農地を何かの理由でその時共有名義にしたことは理解しますが、農地を有効に活用するという観点に立つと共有名義は将来デメリットしか残らないと断言できます。私が担当する地域には農地ではありませんが、60数名の共有名義による広大な“山林”が存在します。この先誰が一体どうするつもりですか?、とこちらが当事者氏に質問を投げかけたいところです。

 
簡素化される手続き 
 農地所有は個人の財産に関わることなので慎重な制度設計が必要なことは当然ですが、農地は有効に活用してこそ価値があるという大原則に立ちかえると、ここで耕作をしたいという(とりわけ遊休農地を借り受けたいとする)農業者にとってはできるだけ簡素な手続きで利用権が設定されることが望ましいと言えます。
 相続未登記農地や所有者不明・共有者不明農地の大部分は現在、地縁血縁ある事実上の耕作をする人によって管理されています。モンダイはその方がリタイアした後の耕作者の有無です。そこで法定相続人の有無の“探索”の範囲を配偶者と子までに狭める、共有者(相続人)の一人でも貸すことができる、利用権設定の期間を20年に長期化するなどといった措置が取られています。また所有者があっても利用の増進が図られない遊休農地についても従前より簡易な手続きで利用権の設定を図ることができる措置が取られています。

 但しこれらは既にモンダイ化している農地に対する対症療法です。今後はこういったケースをこれ以上増やさないための取り組みが必要になってきます。そこで..。

 
農地パトロールとは 
 
農地利用意向調査とは
 
非農地判断とは
 一見すると日頃何もしないで遊んでいるように見える(?)農業委員・推進委員も実は担当地域の農地の利用状況に日々目を凝らしています。特に7~8月を集中月間として農地が遊休化・荒廃化していないかを確認しています(自分は例外・笑。)(農地パトロール)。その結果を受けて、利用状況がどうも怪しい(?)と思われる農地については訪問または文書にて、「あなたが所有するこの農地をこれからどうしていきますか?」という質問を行っています(農地利用意向調査)。中には近年全く利用されていない、この先再生が困難で山林化・原野化が現実的と思われる農地も存在します。そういったケースでは所有者の同意を得てやむを得ず農地台帳から外す手続きを行っています(非農地判断)。所有者がその「非農地判断通知書」を持って法務局で「畑」⇒「山林」への地目変更手続きをすることによって現況・地目ともに“山林”となります。固定資産税の計算も変わってきます。ところが所有者が最後のこの手続きを怠るため、現況は山林しかし地目は“農地”のままというケースが散見されます。この場合相続を重ねていくうちに、未来の人は何が何だかもう訳がわからないとなる滅茶苦茶な迷宮の世界へと突入していきます。「非農地判断通知書」が届いた方は要注意です。

 
農地所有等の下限面積の撤廃 
 一定以上の面積(松本市の場合は地区によって20a~50a)を耕作することによってはじめて農地の売買・贈与・貸借ができるとする規制(下限面積)がこのたび撤廃されます(令和5年4月1日)。簡単に言うと極端な話、耕作面積が1aでも新たに農業を始めることができることになります。他の一定の要件を満たす必要があるとはいえ、新たに自給的農業・兼業農業・小規模農業・定年後農業・半x半農生活を始めたいとするハードルが一気に下がります。矮小農地が多く存在する中山間地にあってはとりわけ朗報です。これによって農地への新規参入の促進と農地利用の流動化が図られ、農業人口の減少に少しでも歯止めがかかることが期待されます。

 
地区のことは地区のみんなで 
 自分たちの地区の未来のことは自分たちで考える。よそ者が口出しをする義務や権利はない。これが大原則です。皆さんのお住いの地区が、“10年後にこうなればいいな”という姿をイメージしてみてください。(その際、それは無理だよという否定形は禁句です。) “子供たちが少ないからもっと子供たちが増えてほしいな空き家もあるし”とか、“小さい農地ばかりで大規模化したい農業者の呼び込みは難しいけれどかわりに半x半農の人たちが何人か来てくれれば集落は維持されるよあの倉庫の農機具タダで貸してくれるはずだし”とか、“自分たちがリタイアする前に皆で果樹の苗木を植えておこう次の世代のために”とか、そういったイメージを地区の皆さんでぜひ共有してください。そのイメージの実現に向けたお手伝いをすることが農政課・農業委員会等行政の役割だと心得ています。



 以上が原稿ですが、ついでに都会の方向けに田舎の農地用語をもういくつかご紹介します。

 
不在地主問題
 都会に住んでいる非農家の人が田舎の実家の農地を相続するってことは普通にあります。そもそも所有者は都会に限らずともスグソコに住んでいないってのは普通です。そしてその農地を誰かに貸してその人がしっかりと耕作しているってのが普通の状態です。ところが、誰にも貸さない、自分も使わない、管理もしない見にも来ないで長年ほったらかしの荒れ放題になっていて有害鳥獣の棲み処兼通り道となっている農地が存在します。耕作放棄地というよりも現状は荒野。所有者と連絡が取れる場合なら近所が迷惑していることを伝えることができるのですが、中には連絡が取れない場合もあります。道路にはみ出した木を所有者に無断で切っても刑法上は一応は罰せられないことになってますが、本来それは所有者の義務であるはずです。大変に始末が悪いです。所有者にやむを得ない事情もあるのでしょうが、その近所の住人にとっては迷惑千万、バカヤロウ的所業であると言えます。事例のひとつは「ぶどう通信566」参照してください。自分もメイワク被り人の一人です。オマエ、タイホする。

 農地の違反転用

 山林に産業廃棄物を不法投棄してタイホされるっていうニュースをたまに見かけます。自分の生活圏内でも、川にゴミを投げ捨てるとかぶどう園に空き缶を投げ捨てるとかコンビニのゴミ箱に家庭ゴミ捨てるとか道路に平気でゴミ投げ捨てるとかいろんなマナー違反がありますが、これらには全て悪意が存在する(あるいはそいつが何も感じていない?)という点において大変始末に悪いですね。同様に、農地を勝手に資材物置き場にしたり産廃処理場にしたりとか砂利を敷いて駐車場にしたりとか建物を建てたりする事例が見られます。自分の所有地なんだから何したっていいじゃねーかよという気持ちはわかりますが、法治国家である日本の場合はそれらは全て違法になります。文句があるなら国民の代表である国会議員にどうぞ。その違法状態を放置しているとかなりきつい罰則もあります。とは言え当然ながらそこに悪意のない事例も数多く存在しています。自宅建物の一部がたまたま地目農地にはみ出ていたけどそのことに気づかなかったとか、自宅に通じる通路の一部を止むを得ずクルマの駐車場として使っているとか、けっこう普通にあります。農地として利用することが現状として現実的でないと客観的に判断される場合は違反転用とはならず、“追認”という形で地目「農地」を地目「宅地」とか「雑種地」に変更することになります。法律のルールの世界なのでなんだかややこしいのですが日本人なら仕方ないです。

 
太陽光バネルの是非
 クリーンなエネルギーのひとつとして太陽光発電が注目されています。基本的には大いに進めていくべき事柄だと思います。こちら経済産業省所轄。 一方で、農地は農用地として利用することが本分。これも大正論だと思います。こちら農林水産省所轄。ところが省庁またがるこの二つの正論を両立させようと試みて見事に失敗したのが農地における“営農型太陽光発電”ってやつです。民間会社であれば責任者はクビが飛ぶくらいのデキの悪さだと思います。農業者が農地の上部に太陽光パネルを設置して売電収入と農業収入をWでゲットしようというバラ色の未来は実は、非現実的な幻想に耽っていた霞が関のオヤクニンの悲しい白昼夢でしかなかったという現実が実態となって現れてきました。実態その①。太陽光パネルを設置して売電収入を得ようとする人と農業収入を得ようとする人は全く別人であるケースが半数以上を占めるという事実。実態その②。目的は太陽光発電収入のみであり、そのためには農業をやっているフリをすればいいとするいかにも怪しげな事案が多く見受けられること。実態その③。わざわざ太陽光のために初期投資をする農業者がそもそもそんなにいるわけがないという事実に目をつぶり、実績を挙げんがためにナンチャッテ農業者にも門戸を開いてしまったのがマチガイの発端でありました。他にもいろいろありますが以降省略。当事者にモンダイがあるわけではありません。多くは合法です。結果としてそもそもの制度設計に欠陥があったと言わざるを得ません。そしてパネルの設置基準の微妙なところの判断が各市町村の農業委員会に委ねられてきたという経緯があって、いくらなんでもそれはないだろってことで、昨年11月に長野県農業委員会が農林水産省に対して設置基準を明確にすべしと要請決議を出したところです。また、農地法上での判断だけではなくて「景観の保全」とか「災害の発生の防止」とか「近隣住民の同意の有無」とかそのあたりもけっこう曖昧なのが実態です。売電価格が安定するとは限らないこととか耐用年数を過ぎたパネルの処理問題とか今あるパネルの多くが中国西域のウイグル地域生産品であることとか難問山積みです。省庁超えた国民的な議論が必要なところです。でも自分としては、省庁の利害調整を優先するような妥協の産物である“営農型”よりも、思い切って農地を太陽光パネル専用として利用する“転用型”推奨に舵を切る方が大きな目では正解ではないかと思ったりしています。

 
農業者年金制度について
 農林水産省に対してもうひと言文句を言ってしまおう。公的年金というのは2階建てで、1階部分は国民年金(基礎年金)で、2階部分は厚生年金(会社員とか公務員)です。3階建てのものもありますね。ありがたいことです。自営業者など第1号被保険者には国民年金基金とか個人型確定拠出年金(iDeCo)いうのもあります。これらは全て厚生労働省所管。これらとは別に第1号被保険者である農業者には農業者年金ってのがあります。なかなかよくできている制度で、特に若い農業者にとっては条件いいはずです。オススメです。ところがこれだけをなぜ農林水産省がやるの?という素朴な疑問。わざわざ単独に農業者年金基金なる独立行政法人まで作って公的年金の2階部分の加入者の取り合いっていう印象を持っています。厚生労働省vs農林水産省の天下り先確保及び出向先確保のための勢力争いの構図と言うのは穿ちすぎか??。条件がいいかわりにこの独立行政法人は運用に相当苦労しているらしい。何しろ農業委員のところにはこの人のところへ営業に行け(名簿極秘)とか訪問日時内容をこと細かに記録した営業報告書を出せとかいう文書がやたらと来るのでアタマにきています。イラツキます。先日届いた「農業者年金加入推進記録簿様式例4」というのは特にひどかった。50年前の生命保険新人社員地域を汗流して気合いで回れ1日100件ローラー訪問大作戦の日替わり日報みたいなゲテモノで、脳天ひっくり返るほど圧倒的にこれはひどい。A4用紙いっぱいに営業状況報告を手書きしろというのも恐ろしい。こんな報告書書いて見て何をどうするか?。県の職員でしょうか作った人はよほどヒマなのかバカなのか無能なのかおそらくその全部。なので無視が最善の策。販促用のタオルやボールペンなんかは要らないからネット上でもっと広告出すとかスマートにon-line相談するとか考えられないのだろうか??。市町村の現場が苦労するのは当たり前。農業委員も事務局職員もJA窓口職員も農業者年金制度のPRや加入受付はするけれども農業者のライフプランナーやファイナンシャルプランナーではありません。そんな専門知識あるわけないし。事務局担当には申しわけないけれどそう思っているんだから仕方がない...。加入推進部長名を拝命していますがこの役だけは御免被りたい....。というかそっちからクビにしてほしい(笑)。また全国の市町村には○○市農業者年金協議会という言語明瞭実態不明の組織があって現場が一応がんじがらめにされている状態なんですが、近年ではこの協議会を解散するところも出てきたようで大変いい流れだと思っています。今日でも行財政改革(=事業仕分け)があるとしたらこの手の協議会は“廃止”、独立行政法人は“統合”である。

 みどりの食糧システム戦略とは
 農林水産業全体の生産力を、持続可能性と矛盾することなく高めていこうとする戦略で、2050年に目標を達成しようとするもの。農業の分野で目標として設定しているのは次の4つです。
 ① 二酸化炭素(CO2)の排出量0の実現。
 ② 化学農薬の使用量50%低減。
 ③ 輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減。
 ④ 有機農業の取り組み面積の割合を全農地の25%までに拡大。
・・・・・・・・うーむ大変に困難で息の長い取り組みです。ぶどう栽培の世界でそんなことは全く発想の外で雲をつかむような話です。でも農業全体の大きな話としてはこれから世の中そういう方向に向かっていくんだなって思っています。そのうちいろんなところでこの言葉が出てくると思うので皆さん気にしておいてください。

 
「人・農地プラン」を発展させて「地域計画」への取り組みへ
 
 (ただいま文章作成中。)