箸の話
以前「チルチンびと」という雑誌に「箸入門講座」なるものを掲載してもらい、記事を見たという方の何人かから注文をもらいました。何年かして、塗り直しができないかという内容の手紙とともに、長年使い込まれたあとがうかがえる本漆の塗り箸が送られてきました。拭き漆でよければということで、塗り直しをし、送り返したところ、たいそう喜ばれました。僕は、そのやりとりのなかから、少しだけ伺い知れるその方の暮らしぶりに触れ、とてもあたたかい気持ちになりました。
我が家の箸は、全て自作の箸で、何度も塗り直しをしながら使っています。使っている内にだんだん反りが出てきました(中には、そらない箸もありますが)。熱いおかずに触れない弁当用の箸としては問題ないと思いますが、普段使いの箸としては、反りが出てくるのは、致し方ないことなのかもしれません(ケヤキであることも関係あると思います)。そりが出ると見た目が多少気になりますが、それを差し引いても、使い勝手はなかなか”いけてる箸”と、自分では今も思っています(単なるうぬぼれかもしれませんが?)。
使い終わった後の箸は、我が家では、手洗いかスポンジで軽くそっと洗っていますが、タワシで毎回ごしごしこすれば、表面に塗った漆もすぐにとれて(削れて)しまいます。ある時、ささくれだった箸を見て、どういう扱いをしたらこんな風になるのか、と思ったことがありました。箸の使い方、洗い方ひとつでもずいぶん個人差があるものだと、思ったのです。
100円位から箸はあり、1,000円の箸は10倍、10,000円の箸はその100倍いい箸ということではないでしょうし、誰もそんな風には思いませんね。10,000円の箸でも100円の箸の100倍長持ち(気持ちよく使えるということですが)すれば、単価は同じ。気持ちいいかどうかなんて、やはり、つまるところは価値観の問題になってくるのでしょう。
買っていただいた方の箸は、今どうなっているのかと気になるところです。反ろうが、折れようが(サイズは短くなりますが、直せます)、塗り直しは今でもします。買われた方で、もしこれをごらんになられたらいつでもお申し出下さい。
尚、箸は製作休止中ですが、刳り抜きの箸箱のみ製作しています。

箸箱 ケヤキ(手前) 拭き漆 5,000円
タモ縮杢(奥) 拭き漆 7,000円
箸入門講座
1980年、数学者マンデルブローは、現在彼の名を冠して呼ばれているある集合を発見しました。それらは、部分が全体と似ているという、自己相似的な性質(フラクタル)を持ちます。身近かなところでは、シダの葉や樹木の枝などに、その性質をみることが出来ます。もし、人生もフラクタルなものだとすれば、その一部分である食事風景も、その人の人生全体の姿と似ているといえます。自分の気に入った箸で食事をするという、普段の暮らしの中の小さなことに目を向けるだけでも、人生を豊かにしてゆくことが出来るのではないか?例えるなら、プラスチックの箸より、木の箸で食事するほうが、断然美味しく感じるように。
こんな思いから、最近、木で箸を作ることを始めました。 箸を作るなんていうのは、えらく地味なようですが、これがなかなか奥が深い仕事であることも、作りながらわかってきました。木ですから、そったり、ねじれたりします。細ければなおさらです。”道具”としての箸にとって、これは致命傷です。それゆえ、出来るだけ木目の通った”素直”なヒノキや竹が、箸の素材によく使われるのもうなずけるところです。
僕なりに思うところもあり、作る箸は今のところケヤキを使っています。仕上げは拭き漆です。僕の好みで、全体に細い感じに作っています。
特に、他の箸に比べ先端部分は 細いので”食事用”と思って下さい。いわゆる箸の作法を守ってもらわないと折れたりするかもしれませんが、食べ物を口に運ぶ道具としての強度は十分あると思います。
しかしながら、箸の先端は、使ううちに摩耗し、漆が剥げたように白っぽくなります。普通でしたらそこで「新しい箸を」となるわけですが、なんとか大事にして使ってゆけないものだろうか?と考え、また塗り直すことにしました。
摩耗してきて、 そろそろ”化粧なおし”が必要と思ったら、当方までお送りください。塗り直しが済んだら、また送り返させていただきます。というふうにして、ひとつの箸を大切に長く使って見ようと思われる方は、お問い合わせ下さい。
箸 1膳1500円 塗り直し 500円( いずれも送料別) です。秋岡芳夫さん風に言えば、一年一日4円少々の使用料となります。箸は、十分な注意を払って作りますが、中には、使えないくらいそったり、突然折れたりすることも予想されます。そんなときは、今後の製作の参考データにしたいので、そのままお送り下さい。かわりの箸を送らせてもらいます。