2025.2.15.
  今の時代の就農相談者の傾向について (報告)  
   
 先日、長野県の新規就農支援関連機関の方のお話しを聞く機会がありました。えっ!?、と驚く内容がありましたのでここに報告をさせていただきます。ホントにえっ!?やったです。
 長野県で農業に新規参入を検討している人がいろいろ情報収集をして一番初めにコンタクトするところが長野県農業担い手育成基金の長野県新規就農相談センター。相談者には、これから先農業も職業の選択肢のひとつとして検討したいという人から、地域や作物、いつから就農したいとかある程度内容を絞り込んでいる人まで、それぞれ温度差はありますが、一年間に300人以上がこの機関に相談にやって来られるそうです。ほとんど毎日ですね。統計上ですが、そのうち実際に新規就農を果たす人はおよそ1割だそうです。ふーん..........、ここまでは他人事なのでどうでもいいのですがモンダイはその先。県内のある地域の統計によると、新規就農を果たした農業者のうち就農後5年間に農業所得250万円を得ることができたのは調査対象のわずか11%しかいないという現実。ん.....!?、それしかいないの??、と一瞬耳を疑いました。そんなことでは生活を維持することすらできないではないか.....。そこで、89%の新規就農者が何故思うように所得が上がらないのかという考察の報告ですが、①技術の未熟さではない。むしろそのことはあまり問題ではない。⓶初期の資金的な準備をしていない。③にも係わらず身の丈を越える過度の初期投資(ハウスなど)をする。借金の返済で首が回らなくなる。④軌道に乗って人を大勢雇って人件費支払で自転車操業を余儀なくされる...等々ということのようです。栽培技術はあるけれども経営的な感度が圧倒的に不足している新規就農者が多いという指摘でした。これを、スキルはあるがセンスがないと表現されていました。経営センスです。
 そのことを踏まえて自分なりのアドバイスです。農業をやりたいという人は大雑把に、「農ある暮らしをしたい」人と「農業を生業としたい」人とに分けられますが、ここでは後者の方へのです。①「農ある暮らしの農業」と「生業としての農業」は全く別物です。いきなり両立は難しいです。⓶2年間程度は収入なしでも生活していける程度の自己資金は欲しいです。また、新規就農を始めるという「開始の時期」の捉え方が相談者と支援制度提供側では必ずしも一致しないことを知っておきましょう。例えば就農後5年で所得300万を目標にするという新規参入希望者がいるとします。当然当初2年3年の農業研修期間もこの中に入っていると思われます。ところが支援制度提供側としてはまずは農業研修期間を経てから就農することになっています。法律によってそう規定されているのでここは動かせません。なので制度提供側が新規就農5年後というのは実質的には7-8年後になるということを押さえておきましょう。ここけっこう大事なポイント。③身の丈経営。農業の初期の設備投資等は極力控える。10年かかって初期投資の返済の1/2がやっと終わるなんて世界に身を置くような人のことをこの業界ではオロカモノと呼びます。④経営状態を年次推移としてシビアに把握するために複式簿記の知識。人を雇えば自分は楽できます。でも人を雇わないと肝心の作業が追いつきません。なのでどこまでのところに人を雇うかという感度の把握。資材とか物価高騰の折、費用の金額UPはここまでは許せるがそのためには販売をここまで伸ばさないといけなという計算感度。販売も費用も収益も所得も、「終わってみないとわからない」という世界に住む新住民のことをこの業界ではOバカ者と呼びます。農業経営者は中小企業の社長さんですからとてもえらい人のはずです。今まで給料をもらっていた立場の人は今度は給料を払う立場に変わることになるのですが、そのことを考えることを敢えて避けている新規農業者が多いのではないでしょうか。自分の経営はなりゆき任せ人任せ運任せ勢い任せにするのでなく、しっかり自分で考えましょう。 
 
  2025.1.19.
  山辺地区の直近の新規就農事例紹介
 
 ⇐   松本市 移住定住ポータルサイト
     Iターン新規就農者の体験談が載ってます。
 
  2023.7.23.
  まずはごあいさつ。
   
 埼玉県から大阪・神戸経由で松本市山辺地区に就農して18年が経過しました。現場ではIターン新規就農者の第1世代にあたります。18年間一生懸命やってきました。毎年、喜びや楽しみに達成感、苦労や怒り(?)の繰り返しです。ぶどうシーズンが終わる10月中旬には、心身燃え尽きて真っ白な灰になって眠ることが年中行事になっています。
 
 さて、この産地には、意欲溢れる次代のぶどうの担い手が必要です。ぶどう道を志してみたいと思う方、ぜひ最後まで読んでみてください。

  山辺地区のぶどうとは。
   
 所管JAはJA松本ハイランド。松本市と塩尻市をカバーする総合農協です。ぶどうの販売実績は年間13億円強。長野県全体のおよそ1割強を占めます。その内の5億円強が山辺産のぶどうです。つまり山辺地区で長野県のぶどうのおよそ5%を生産していることになります。ぶどう収穫シーズンは6月下旬から始まります。ハウスデラウェア⇒ハウス大粒種⇒露地デラウェア⇒露地大粒種の順で10月いっぱいのおよそ4か月、ぶどうの松本ハイランド産シリーズとして店頭に並びます。
 
 山辺産のデラウェアは日本一の高品質、高価格を誇ります。作り方にある工夫を凝らしているため、他産地のものに比べてやや大粒に仕上がることが特徴です。そして大粒種。シャインマスカットの生産量がいよいよ巨峰を上回る勢いです。そしてピオーネ、ナガノパープル、クイーンルージュ等々。そして松本生れ松本育ちの希少ぶどうが黄華。市場流通としては浜松市以西の西日本と地元市場。台湾や香港への輸出もあります。西日本だけでほぼ売り切ってしまうので東京の市場で山辺産ぶどうを見かけることはまずありません。
 
 産地の歴史も古く、昔も今も地域に根ざした産業と言えます。地域の小学校や中学校ではぶどう栽培の体験学習があります。松本市が作成する「旬のカレンダー」なんかにもたいていぶどうが登場します。

  山辺地区のぶどう産業の現状と課題。
   
 しかしながら山辺のぶどう産業も日本全国の多くの農村と同じようにいくつかの構造的な問題を抱えています。 ①生産者高齢化による担い手数の絶対的不足。②市街化区域の開発・都市化による農地面積の減少、③反対に過疎地域での農地の荒廃化。④そして気候の温暖化による、ぶどう栽培適地の北上化。 とりわけ次代の担い手の確保が最重要課題です。親元新規就農者、定年後の帰農者等、新たな担い手はそれなりに存在するものの、10年後を見据えるとまだ足りません。そこで..........。

 山辺地区でぶどう栽培に挑戦してみませんか....!?。 

  松本市新規就農者育成対策事業。
   
 松本市新規就農者育成対策事業の終了生には、就農後に脱落する(就農を諦めてやっぱり止めるという)人が極めて少ないという実績があります。理由は2つ。①この事業に採択されるためのハードルが高いこと、つまり真に意欲ある人をのみ受け入れていること、②地域での受け入れ体制がしっかり整っていること、に尽きます。
 
 10年前と違って今ではどんな市町村でも“新規就農者支援事業”っていうのをやっています。ところがその内容の薄さに呆れて笑えるものが少なからず存在します。新規就農者の身になっていないというか。曰く、「農地はいくらでもあります(遊休農地またはその予備軍のこと)。何を栽培していただいても結構です。販売も自分でどんどんやっ下さい。生活資金2年程度だけはきっちりお渡しします。とにかく一生懸命やってください。以上おしまい。」ってレベル。 農地の確保、営農(技術)指導、農機具の手配、販売(技術)指導、住宅のお世話とか地域に溶け込んでもらうための諸々の助言アドバイス等はパッケージとして包括して提案しないといけません。そうでないところに間違えて入ってしまった結果、思うように農地が借りれないとか、誰も何も教えてくれないとか、理想と現実が違うとか、田舎暮らしはやっぱり無理だとか、思っていた以上に収入が得られる見込みがないだとかとの理由で就農を諦める(挫折する)人が少なからず存在しているという現実があります。統計によると新規就農者5人のうち1人以上は数年のうちに挫折するとか。これは双方の事前の打ち合わせの“決定的な不足”によります。双方にとって不幸なことです。
 
 松本・山辺地域では、真に意欲あるぶどうチャレンジャーを求めています。 “意欲”とは、大きく4通りあります。 ①生活の生業としてのぶどう作りにチャレンジしたい。何ごとも地道にコツコツやりたい。 ②いろんな人からいろんなことを教わって地域に溶け込みたい。 ③ぶどうを作るだけではなく、2次産業3次産業6次7次産業にも挑戦したい。何か新しいことをやりたい。 ④いろんな人から教わったことを将来、次の誰かに伝えていきたい。地域の役に立ちたい。
 
 そんなチャレンジャーの方を我々は本気で、指導、支援、応援をしていきます。 “我々”とは主に次の組織、機関です。①山辺果樹部会、②JA松本ハイランド営農企画課、③松本市役所農政課、④長野県農業農村支援センター、⑤松本市農業委員会、⑥地域のいろんな組織・団体と“人”。

  いろいろな新規就農支援施策。(一例)
   
 ① 松本市新規就農者育成対策事業 (松本市、JA松本ハイランド)
 ② 里親農業者研修 (長野県)
 ③ 新規就農者育成総合対策のうち、就農準備資金・経営開始資金 (国)

 ・・・採択には、熱意とビジョンをお示しいただきます。どれもがハードル低くはないです。

  ぶどう以外の生活環境はどうなの?。松本ってどんなところ?。山辺って???。
   
 お子様のいる家庭にとってはお子様の教育環境や通学環境も大切な要素です。松本は「半都半農」。山辺エリア内には保育園・小学校・中学校があります。特筆するべきは高校の選択肢。松本市街地にある公立私立のいくつもの高校が自転車通学圏内であること。お子さんの学校の選択肢が複数あることと送り迎えをせず自力で通えるということは、移住するにあたっての大きなポイントになるはずです
  
 松本は国宝・松本城を擁する24万都市です。地下鉄とタワマン以外は普通に何でもあります。基本的にはクルマ社会。なので駅前の繁華街は夜は閑散としています。夜飲んでも電車で帰れない(笑)。 地区の町会役員(隣組長、ゴミステーション当番、消防団、地区PTA役員、地区体育委員、地区交通安全協会、祭礼系役員、農家組合役員、日赤奉仕団....その他いろいろ。)は一生涯何か回ってきます。ちなみに私の所属する町会は約140世帯ですが、“町会役員名簿”にはなんと125もの役職があります。笑えます。それを非効率、無意味、時代遅れなどと批判せずに楽しみながら役にあたることができれば立派な地域の住人。住めば都です。


  ぶっちゃけ、ぶどうでどのくらい稼げる?。 ぶどうで生活していける.......??。 
 
 ざっくり計算ですが、露地ぶどう成木園10aで粗収入100万円、そこに係る経費50万円。よって利益は50万円とします。利益率は50%。この数値が計算の基本です。単位面積あたりの粗収入は、果樹の中ではぶどうが断トツの一位を誇ります。ならば単純に面積が1ha(100a)あれば利益500万ゲットとなればいいのですがそうではありません。就農して所得が350万あればいい人、500万ほしい人、700万ほしい人、ご夫婦Wインカムで1000万ほしい人など、ご家庭によって目標や事情は様々です。以下、ぶどう専業で500万コースモデルを紹介します。決して安易にできるものではありません。こつこつとたゆまぬ努力を惜しまぬ者が、実力と時の運を身につけて、10年をかけて、心身消耗するほどに汗と涙をたっぷり流したあとにのみようやく到達できる、茨の道と心得てください。
 
 デラウェア。標高の高低差をつけて、13aのぶどう園を3枚。合計40a程度を確保。発芽→芽欠き→房摘み→1回目ジベレリン処理→誘引→軸長整理→2回目ジベレリン処理→摘粒→副梢管理→笠かけと続く一連の作業には適期があります。数日間しかない適期内にしっかりと作業をする必要があります。40aもの面積でひとつの作業を2-3日のうちにいっぺんにやり切ることは不可能です。そのため、標高差をつけた複数のぶどう園で、ぶどうの生育ステージをややずらして作業にかかることがポイントです。雹害、病虫害等のリスクを分散させ、収穫適期を分散させる意味でも、標高差をつけた複数のぶどう園を確保することがデラウェア成功の第一歩です。
 
 大粒種。
ここでも標高差をつけて15aを4枚計60a。デラウェアと比べたら作業の密度は短期集中型。そのため、いかに上手に作業適期をずらすことができるかが勝敗の分かれ目のポイントになります。ナガノパープル等の生育ステージのやや早いものは低いところで、シャインマスカットは中くらいのところで、巨峰やピオーネ、クイーンルュージュ等の着色系のものは気温の寒暖差の大きい標高の高いところ、が理想です。また、雨が降ってもぶどうは生育を止めません。どんなに雨が降っていてもカッパを着ずに作業のできる雨除け施設のぶどう園が一部あることが望ましいと言えます。

 このようにシュミレーションしていくと、就農後数年のうちに上記のようなぶどう園を確保することは不可能です。そんなにうまいことはいきません。ならば自己資金で好きなところにぶどう棚を新設する方法がありますが、その場合、成木になって稼げるようになるまでに最低5年はかかります。ちなみにぶどう棚新設は10aあたり100万円が目安です。このように考えていくと、理想の農地をいかにして確保していくかが最大のポイントになります。 成木園を借りるとなると、そこを辞める人がいることが前提になります。つまりタイミングです。その時の“運”も少なからず作用します。なので一般的には、その時借りることができるぶどう園をどんどん借りていって面積を拡大しつつ、自分なりにぶどう品種の改植等を加えていくことになります。そしておよそ10年後、面積が最大値になる時に最大の関門が待ち受けます。ぶどう作業が無理なく順調にこなせているか、収穫するぶどうにロスがどれだけあるか、人件費その他費用を考えてコスパ(費用対効果)はどうなのか.........。自分の経営の着地点を探ることになります。面積120a/販売1100万/費用600万よりも、面積90a/販売1000万/費用450万の方がいいに決まっています。これを“ぶどう経営の最適化”と呼びます。安定的な500万コースはこのようにして達成されます。あとはコストをどれだけ抑えるか。そして利益の上乗せ。例えば共撰に出すぶどうの一部を何か違う付加価値をつけて自分なりに直売することで+α。営業外利益、例えば違うところでの給与所得で+α上乗せ。ここまでできればご夫婦Wインカムで1000万も不可能ではありません。ぶどう園設計=人生設計ともなります。ここまで読んでいただいてビビった方はどうぞご退室ください。どこで何をやろうとしても新規就農は無理です(笑)。うーむわかったよ挑戦してみるよと思った方は積極的にお問い合わせください。初めの2-3年、収入がほぼ無くても暮らせていけるだけの自己資金がある程度あればとりあえず安心です。上記に挙げた新規就農支援施策は、以前は就農したあとの金銭的支援に重点がおかれていましたが、昨今は就農するにあたっての金銭的支援に重点がシフトしつつあります。そういった意味では今がチャンスと言えるかもしれません。

  松本での新規就農リンク集 / 問い合わせ
   
 ・JA松本ハイランド / 営農部営農企画課  0263-29-0394
 ・松本市役所 / 産業振興部農政課担い手担当  0263-34-3221

 ・なかがわ葡萄園・園主  中川 敦  090-5153-2464
 
「KURA」別冊・信州松本。山辺の新規就農者座談会が載っています。
  山辺ぶどう現地視察会 令和5年7月23日
 
 首都圏からまた地元から、15名の方が参加されました。この中から、山辺で新規就農をされる方が何人かでも出てくることを願っています。新規就農3年目K氏のぶどう園にて。

 その時のチラシはコレ。
 7月23日(日) 山辺ぶどう現地視察会のお知らせ pdf 

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