メロス楽譜 M1016 第3刷
海豹と雲
作曲者のことば
多田 武彦
 近年、壮年熟年男声合唱団の活躍が目覚ましい。「仕事を終えたおじさま族のお
座興」などと椰輸する人もいるが、そんないい加減なものではない。
 昔取った杵柄の上に、永年の実社会での経験や苦労が曲の解釈に厚みを加え、更
にメンバーが折々に視聴してきた流体芸術によって感性が高められ、これらが結集
して名演奏を聴かせてくれている。
 このような流れの中、2001年に「第1回東京男声合唱フェスティバル」の合同演
奏曲の作曲を委嘱された。
 このご好意に応えるべく、男声合唱作曲歴48年の知恵を絞ってしっかり書かねば
と思ったが、70歳を越え老い先の短くなった私には、若い有能な作曲家たちのよう
な現代曲を書く能力も元気も今はない。あるのは、永年培った「古典的手法による
ア・カペラの男声合唱曲」を作る気力だけ。
 処が、こんな時に限って思い出しては勇気づけられるのが、私がまだ二十歳台の
頃に頂いた「山田耕筰先生、清水脩先生、外山国彦先生(雄三・浩爾、両先生の御
尊父)からのお言葉」であった。
 それは「日本の多くの人々の心に残る、唱歌・童謡・歌曲・演歌などの多くは、
美しい日本の詩歌と、西洋音楽の堅牢な構築性とがよく調和して、まるで交配種の
名花のように、複合芸術の妙を発揮している。このような作品を書くように!」と
の薫陶であった。
 詩を選んでいくうちに、やはり北原白秋先生の詩に辿り着いた。多くの詩が内蔵
されている詩集「海豹と雲」から、私は今までも沢山の詩に作曲しているが、今回
選んだ6篇にも北原白秋先生の、詩風の高雅さ、語彙の芳醇さ、語感の清新さに感
動が湧いた。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力をいただいた、メロス楽譜西野一雄氏に厚く
御礼を申し上げる。
2002年6月