まえがき

 二十世紀が、あと数年で終わろうとしています。 昭和二十年(一九四五)八月十五日、大東亜戦争(太平洋戦争)は無条件降伏の敗戦という形で、満州事変、支那事変(日中事変)と続いた十五年戦争に終止符が打たれました。そして、他国への侵略と征服によって、わが国の繁栄を計ろうと考えた軍国主義思想は、その幕を閉じました。 今日の日本の平和は、多くの人々の尊い生命(いのち)の犠牲の上に生まれたものであります。戦争を二度と繰り返してはなりません。
  そのためにも、厳しい戦争の時代の中で、一人一人がどのようにして生き抜いてきたのか、また、戦争が始まって国民はどうさせられたのか、この大戦の、戦中戦後におけるさまざまな個人体験を、決して風化させることなく遺しておく必要があります。戦後五十年余りが過ぎ、今そして今後のために、その必要性を一層感じます。
  平成八年初夏、「本郷福祉ひろば」に集まる方々の「思い出話の交流会」で、いろいろな話が出されました。回を重ねるうちに、公民館と協力して、「戦争体験を語り継こう」を冊子にまとめようということになり、広報でもそれをお知らせしました。初冬には、市民タイムスや信濃毎日新聞の紙上で、体験記募集をしていただき、広く、大勢の方々から原稿が寄せられました。
  遠い所から、戦争体験者の生々しい声が聞こえてきます。ドドーン、ドーンと、時を超えて、今小さく、だが確かな音として体に響いてきます。そんな意味をこめて、この冊子に「遠い太鼓」と名付けました。この響きを大事に守り続けたい思いです。
  この戦争体験記の発刊に当り、寄稿された方々をはじめ、ご支援をいただきました多くの皆様に、心から感謝申し上げます。

    平成九年(一九九七)三月二十日
  「戦争体験を語り継こう」編集委員会  
                                  松本市本郷公民館館長 岩本洋一