指定管理者制度に関する 提言書(素案)

 1 はじめに
  
 指定管理者制度は、「多様化する住民ニーズに、より効果的、効率的に対応するため、公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ、住民サービスの向上を図るとともに、経費の節減等を図ること」を目的として、平成15年6月の地方自治法の改正により設けられました。 が、規制緩和による民間へのもうけの開放、公金で建設した施設を民間企業のもうけの材料として提供してしまうという本質を持ち、そこには基本的には安ければ安いほどよいという市場原理が働くもの制度ともいわれます。  
  公の施設の管理主体は、それまでは、直営とする場合のほかは、出資法人、公共団体、公共的団体に限定されていましたが、法人その他の団体であれば特段の制限がなくなり、民間企業等が管理主体となることも可能となりました。 が、もともと地域住民の福祉を増進、その福祉のために貢献、奉仕すべき地方自治体が、公費で建設された施設がもうけの自由競争にさらされることによる弊害が生まれることは、この制度のいわば宿命と言えるものです。
 総務省の調査結果では、平成21年4月1日現在で、全国の導入施設数は70,022施設、そのうち民間企業等が指定管理者となっているものは約3割の20,489施設となっていました。(民間企業等・・・株式会社、NPO法人、学校法人、医療法人、共同企業体等)   
 また、導入施設のうち、約4割の27,992施設は、公募により指定管理者を選定したものとなっていました。   
 地方自治法では、指定管理者の指定の手続等を条例で定めること、指定は期間を定めて行うこと、指定をするときは議会の議決を経なければならないこと、指定管理者は毎年度終了後、事業報告書を作成し提出しなければならないこと等が規定されていますが、具体的な指定管理者の選定の方法、指定期間等の制度の運用は、それぞれの地方公共団体の政策的な判断に委ねられています。

  2 本市の導入状況
  
  本市では、地方自治法の改正を受け、平成15年10月に「松本市公の施設の指定管理者の指定手続等に関する条例」を制定し、平成16年4月から導入しています。   
  当初は、従前からの管理委託先を特命により指定管理者に指定するものが中心でしたが、導入施設の拡大が図られてきた結果、平成23年4月現在では、210施設が指定管理者による管理となりました。   
  このうち、公募により選定されているものは約7割の154施設で、指定管理者の態様をみると、社団法人、財団法人、社会福祉法人などの公共的団体だけでなく、株式会社が11社、NPO法人が2団体、そのほか地域的な団体など多様な管理主体による管理が行われている状況となっています。   
  平成23年度の取組みでは、平成24年度から新たに、安曇老人憩の家銀山荘、公設地方卸売市場、梓川地場産品直売施設に導入することになり、そのための条例改正、指定管理者の指定が行われたほか、指定期間満了に伴う更新等で58施設の指定が行われました。一方、平成24年度に1施設(ウェルネスうつくし)が休止となりましたので、平成24年4月現在では、指定管理者制度導入施設は、前年度より2施設増えて212施設となっています。

  3 調査・研究に当たって
  
  平成16年度からの制度導入後、平成23年4月で7年が経過し、導入施設については更新による2期目、3期目の指定が行われてきています。   この間、市では、公募による選定の拡大、協定書の内容の整備、モニタリングの充実、リスク管理表の整備等運営上の見直しが図られ、指定管理者からの提案による自主事業の取組みによる住民サービスの向上や、導入による経費の節減など、(指定管理者制度は一定の成果を上げてきたものと考えます。)指定管理者制度は一定の成果を上げてきているように見えまずが、一方で、いくつかの問題点、弊害が顕在化しつつあります。
 指定管理者制度は、一つ、公の施設を一部企業のもうけの道具にすること自体に一番の問題があります。
 そして二つ目に、指定管理者制度により営利企業が利益を確保しながら、そこに働く人たちの勤務条件を維持し、なおかつ住民サービスも向上させる。この二つのことは、いわば理論上、市場原理の中では、及び利潤追求というシステムの中では難しいこととなります。利潤を上げようとすれば、住民サービスか、ないしは働く職員の皆さんの勤務条件に、そのどちらかにしわ寄せをせざるを得ません。
 3番目に、行政の施策の継続性の遮断による不安や弊害が生まれます。市民と地域と行政の協働がつくり上げる施策との関係で言えば、それまでの実績や歴史などを断ち切るものになる。これによる問題を生じさせるものです。
 4番目に、営利企業が管理することで、議会からも監視が大幅に後退する。住民からの監査もしにくくなるという問題です。
 そして五つ目に、先ほども言いましたが、雇用問題発生の危険が生まれる。指定管理者が変わるたびに不安定雇用、雇いどめとか、労働者の雇用条件に変更が生まれることです。このほかにも特定業者との癒着の問題、これは行政との癒着の問題ですね、及び不正や口ききの温床ということでは、全国的にも幾つかの事例が既に問題点として報告をされているところです。

 こうした問題点について、これまでの松本市の取組みを今の時点でまず中間的に検討することが必要です。

 
議会では、制度導入に伴う施設の設置条例の改正や指定管理者の指定に係る議案の審議等を通じて、これまでも要望、提案を行ってきているところですが、平成23年度、総務委員会で「指定管理者制度について」をテーマとして設定し、本市の制度運用の取組みを調査し、他市への視察、研修会への参加、議員活動で得た住民の声等を参考に、一層の住民サービスの向上に向けた制度の運用あり方について議論しました。
  仮に、この制度の運用にあたって、改革が進んだにしても、本質的なもともとのいわば本源的な、先ほど指摘したような矛盾の解決に必ずしもつながらないことがありますが、今回は、そうした限界を踏まえつつも、いわば可能な「改善策」にしぼって、提言を行うものです。  (ただし、個別にさらなる検討が必要)

  4 基本的な考え方
  
  指定管理者制度の運用に当たっては、目指すべき姿を次のとおりと設定し、本市の現状を確認し、今後の必要な取組事項を整理しました。
  (1) 施設の設置目的に即して、適切な仕様書や要求水準書の内容が示されること。
  (2) 指定管理者制度の導入について周知が図られ、参入のための機会が確保されること。
  (3) 事業者の選定に当たっては、経費削減の観点だけでなく、民間のノウハウ等の活用が期待される適切な選定が行われること。
  (4) 第三者評価等で、専門的・客観的評価システムが構築され、評価の結果が公表されること。
  (5) 指定管理者は意欲を持って施設の管理運営を行い、市と指定管理者がそれぞれの立場で協働し、住民サービスの向上に取り組むこと。

  5 本市の取組みの検証と提言

  (1) 制度適用の検討について   
  ア 制度導入対象施設として、平成23年4月現在で737施設が整理されています。   
  イ 管理運営に係る分析を行い、庁内での検討を基本に導入の適否を検討していますが、今後、住民意見を聴く方向で検討したいとのことでした。   
  <検証と提言>    
 ( これまでは制度導入の検討の際、パブリックコメント的に住民意見を聴く手続はとられていません。施設のあり方を考える上でも、利用者を含め住民意見を聴くことは重要と考えますので、制度導入の検討の際には必要な情報を提示の上、住民意見を聴く機会を設けてください。)
  これまでは制度適用施設の検討の際、パブリックコメント的に住民意見を聴く手続はとられていません。施設のあり方を考える上でも、利用者を含め住民意見を聴くことは重要と考えますので、制度適用施設の検討のあたっては、必要な情報を提示の上、住民意見を聴く機会を設けて直営に戻すことも含めて検討しなおす。
 
 
  (2) 募集及び選定について   
  ア 選定方法は、原則公募としており、一定の条件にあてはまる場合のみ特命指定としています。   
  イ 発注方法は、申請団体等のノウハウを最大限引き出すことができるよう、業務を包括的に任せ、必要な業務水準を達成することを条件に発注する方法(性能発注)を採用しています。   
  ウ 指定管理料については、これまでの実績、人件費単価表等一定のルールに基づき積算した上限額を募集要項で提示しています。   
  エ 選定に当たっての審査項目は、募集要項で公表しています。   
  オ 公募期間は、30日以上を原則としています。   
  カ 選定は、申請書による書類審査、申請者によるプレゼンテーション、質疑応答をもとに評価表を作成し、評価表の得点を目安に総合的な観点から候補者を選定することとしています。   
  キ 選定審議会の会議は非公開としていますが、審議結果はホームページで公表しています。   
  <検証と提言>    
  選定方法は公募を原則とし、競争性を高める取組みがされてきています。募集の際の審査項目の公表、選定審議会の審議結果の公表など一定の情報の開示も図られてきています。候補者の選定は、提案価格による経費の削減だけでなく総合的な判断がなされ選定されているものと考えます。提案価格は、審査項目の一つになっていて、20点の配点となっていますが、計算式は20点×最低提案価格/当該提案価格で、提案価格の多寡によりそれほど大きな差が生じることにはなっていません。平成23年度の候補者の選定結果をみると、最低価格を提示した団体が候補者とされたのは自転車駐車場(10施設一括)のみとなっていました。    
  平成23年度に公募された施設の募集、応募状況をみると、募集期間は、最も短いもので31日間(いがやレクリエーションランドほか2施設)、最も長いもので55日間(庄内屋内プールほか1施設)となっていました。応募状況では、最も多数の応募があった場合で6団体(松本城大手門駐車場)、一方、1団体しか応募がなかったもの(ながわ山彩館、三城いこいの広場、奈川高ソメキャンプ場ほか1施設、アルプス公園ほか1施設)もありました。複数の応募があった施設のなかでも、地元の団体からの応募がないもの(自転車駐車場(10施設一括)等)があったことは注視しなければなりません。    公募の趣旨からも、十分な周知を図り、申請しやすい環境をつくることが必要です。募集期間については、新規に応募しようとする団体にとっては、募集要項の確認、説明会への参加、提出書類の準備等を考えると30日間は少し短いと考えられますので、原則50日以上の募集期間を設定することとしてください。    総務委員会が視察を行った倉敷市では、指定管理者制度における新たな価値の創造として、障がい者の自立支援の視点から、一定規模以上の施設で障がい者の雇用の義務付けを行っていました。本市においても、義務付け可能な施設の検討や施設管理業務のなかでの雇用の促進を図るための方策について検討願います。
 
  (3) モニタリングについて   
  ア 指定管理者が提供する公共サービスの水準を点検・評価するために、モニタリングに関する要領を作成し、協定に盛り込んでいます。   
  イ 指定管理者及び市が最低限行うべきものは、次のとおりとしています。

  指定管理者:    事業報告書の提出、実績報告書の提出、利用者アンケートの実施とその報告
     市   :      報告書のチェック、随時の立入確認、有事の立入確認   

  ウ モニタリングの結果は、総括的な結果と施設別の結果をホームページで公開しています。   
  エ 評価方法を次のとおり見直してきています。

  平成21年度 実績の評価:  評価に点数制を導入
  平成22年度 実績の評価:  事業計画書の内容が高く評価されたものと、標準的なものとで分類する項目を設け、事業計画書のレベルを踏まえた採点方法に変更、また、評価区分を5段階から4段階に変更   

  オ 平成24年度から第三者モニタリング制度の導入が予定されています。   
  <検証と提言>    
  選定時に評価された団体の事業計画が、実際の管理運営のなかで実行されなければなりません。適切な評価方法を確立し、改善点等を明らかにすることは、住民サービスの向上のために重要です。    
  モニタリングに関する要領に従い適切にモニタリングを実施するためには、所管課の職員が、施設の設置目的、施設固有の課題、現場の状況等を十分把握していることが必要です。指定管理者の自由を尊重しつつも、所管課では、随時訪問することにより実態把握に努め、問題点がある場合には、指定管理者とともに解決に向けて取り組んでください。
 評価方法については、さらに評価に客観性を高めるためのものとして第三者モニタリングを取り入れることも必要な取組みと考えます。    
  第三者モニタリング実施のための予算は、今後提案されることと思いますが、実施の際には、先進市の事例を参考に、効果的な方法で実施し、結果を公表してください。    
   なお、指定管理者による利用者アンケートに関しては、利用者が限定される施設において、個人が特定されてしまうおそれがあるため自由な記述ができないといった意見も聞かれますので、利用者の声を市が直接把握する方法についても検討してください。    
  また、指定管理者名、指定期間、モニタリング結果等を施設内の見やすいところに掲示することは、指定管理者制度の周知の観点を含め、必要と考えます。  

  (4) 指定管理者へのインセンティブの付与について    
  指定管理者のモチベーションの維持・向上を図るために、次の取組みがされています。   
  ア 利用料金制(利用料金を指定管理者の収入として認める。)     
   平成23年4月現在で利用料金制を導入している施設は51施設で、そのうち委託料併用方式が19施設、独立採算方式が32施設となっています。独立採算方式の施設のうち、相当の黒字が見込まれる施設については、収入のうちの一定割合を納付金として納入を求めているものがあります。平成24年度の更新に当たっては、デイサービスセンター8カ所について新たに納付金を求める形での更新がされました。   
  イ 市営住宅の管理については、報奨金制度が導入されています。   
  ウ 指定管理者の優れた取組事例等の広報に努めています。   
  エ 指定管理者のサービス向上のための提案について、適当と判断できるものは受け入れています。   
  <検証と提言>    
  指定管理者は、責任と自覚をもって、公の施設の管理運営を行うものですが、インセンティブを付与し、意欲を向上させることは、結果として住民サービスの向上につながることになります。    
  金銭面での優遇措置を講ずるものが主なものとなりますが、実績を正当に評価、公表していくことも大切です。
 前記のとおり、モニタリングの精度の向上が図られ、結果も公表されていますが、ホームページでは、施設名、指定管理者名、評価結果を一覧的に見ることができず、個々の施設を見なければ評価結果が確認できない状況になっています。評価結果が優れていた施設、指定管理者を広報、ホームページ等で積極的に公表していくことが、指定管理者の意欲の向上につながるのではないかと考えますので検討してください。    
  指定管理は、期間を決めて指定を行うものであり、本市では原則5年として運用されていますが、評価の客観性が高まってきた段階においては、実績において一定以上の評価を得た場合には、特命により更新できる仕組み、又は更新時の申請において一定のポイントを付与する仕組みを設けることも指定管理者の意欲の向上につながるのではないかと考えます。  
  (5) 災害発生時の危機管理対策について    
  個々の施設では、火災等を想定した防災計画・避難計画が策定されていると思います。指定管理者の指定申請書では、安全管理対策を記載しなければならないことになっていますし、協定書においても緊急時に対する規定がされています。   
  <検証と提言>    
  昨年3月11日の東日本大震災、6月30日の長野県中部を震源とする震度5強の地震を踏まえると、個々の施設の安全性の確認と向上に努めるとともに、全市的な大規模災害が発生した場合も想定し、できる限りの検討を行い、対策を講じておく必要があります。    
  公の施設は、災害時においては、避難所等災害対策の拠点となる場合があり、現状でも、指定管理者が管理する施設で、まつもと市民芸術館、音楽文化ホール、松風園、浅間温泉文化センター等避難所に指定されている施設があります。    
  災害の発生時には、指定管理者に対しても緊急の対応を求められることがあり、迅速かつ的確な対応が必要になります。    
  もう一歩踏み込んだ防災計画・避難計画の見直しや、市と指定管理者が連携して対応が図れるよう、災害発生時の指定管理者の対応範囲と権限を明確にしておく取組みをしてください。

  6 おわりに  
  市内の200以上の施設で指定管理者による管理が行われていますが、公の施設の設置目的・種類は多種多様で、市のホームページでは、@福祉施設、A文化施設・ホール・貸館施設、B観光・レジャー施設、C農林業等の産業振興施設、Dスポーツ施設、E駐車場・公園等基盤施設の6種類に分類しています。また、収益面からみても相当の収益が見込めるものもありますが、まったく採算性が考慮できないものもあります。   
  特命による指定施設をみると、地域との結びつきが強く、地縁に特定される団体を指定し、地域づくりに貢献している施設も多数あります。   
  今後におきましては、(さらなる住民サービスの向上をめざして、市と指定管理者が適切な距離を保ちながら協働し、それぞれの施設の設置目的が最大限に発揮されるよう今後も取り組まれることを期待するものです。) この間松本市で生れている問題点を真摯に検討し、真に住民サービスの向上につながるものかどうかを吟味し、指定管理制度を適用するのか、直営に戻すのかを、それぞれの施設の設置目的が最大限に発揮できるかどうかを今後も検討することを期待するものです。