中馬清福

  熟議に遠い税と原発
  有無いわさぬ政治でいいか


  火葬された小宮山量平さんの骨は、95年の生を紡いできた人とはとても思えぬほど、硬くて白く若々しく見えた。
  まだ量平さんを語る気持ちになれないでいる。だから今日は初めの予定どおり、今の政治への不満について書く。
  量平さんは将来に向けて常に前向きだった。その人が死に臨んで「ちっともいい世の中にならなかったねえ」と語ったという。衝撃である。
  いい世の中にしよう。この遺言を生かすため、新聞は政治を正す道を愚直に歩もうと思う。

  ■粗雑な極論
  サル芝居の政治といえばサルが怒るから、ここは上品に政治の演劇化といっておこう。観客席に座りっぱなしの有権者をどうやって意のままに動かすか、その技法はますます巧妙かつ芝居がかってきた。
  結論は出ているのに、国民の声を聞いてとか、閣内に検討会を立ち上げてとか、熱心に議論したふうを装う。その間に少しずつ本心を明かして当初の結論に導く。消費税問題がそうだったし、TPP(環太平洋連携協定)もそうなるだろう。
  原発についてはさらに芸が細かい。減原発は原発担当相が、原発推進は経産相が代弁した。 そのたびに有権者は一喜一憂した。次いで首相と官房長官を加えた4者協議が始まった。原発相の声は日ましに弱くなった。 そして某日、政府は「原発再稼働は妥当」を決定した。
  これは熟議の結果か。そうとは言い切れぬ。昨年10月の野田佳彦首相の所信表明を思い出してほしい。「一日も早く原発事故を収束させる」とは言ったが「原発を見直す」といった文言は一切なかった。
  凍結、期間限定の手法も要注意だ。公務員住宅の増設を批判されると、根本間題には触れず「建設を当面凍結」と来る。国会議員の歳費が高いと攻撃されると、では2年間だけ下げましよう、と来る。
  演劇政治にどう向きあうか。 暮らしに直結する消費税を例に考えてみよう。
  消費税を上げないと財政は破綻し日本は破滅するといった、まがまがしい説が流れている。 政財界だけでなく一部メディアまでがそう言う。
  観客化し、お任せ型の有権者を揺さぶるには有効かもしれぬが、この説はあまりに粗雑だ。 財政破綻を防ぐ鉄則は歳出を減らし歳入をふやすこと。歳入の柱の税金には所得税、法人税、相続税などがあり、消費税はその一つにすぎない。
  今回、なぜ消費税の引き上げか。広く、手軽に徴収できるから…。なぜ所得税や相続税に本格的に触れないのか。超高所得層の反発が怖いから…。
  財政危機を乗り切るには租税体系を見直して、より公正で、より効率的な納税の仕組みに作り直すことが先決である。

  ■庶民の知恵
  政府は国政に年90兆円ほど使っている。私たちが納める税金は年40兆円。50兆円は借金だ。これでいいはずがない。だから私は増税も仕方ないと思う。
  それには条件がある。
  @歳出を削れ。今年度国家予算には、例えば東京外郭環状道路に1兆2800億円など、自民党時代顔負けの公共事業がずらり並んでいた。
  A税金は金持ちから取れ。日本では年に80兆円の相続財産が生じるが、対する税収は1兆2500億円にすぎない、と宮崎哲弥さんが書いていた。
  B木だけでなく森も見よ。前回、消費税増税で税収総額もふえた。ところが景気が悪化して所得税や法人税の税収が落ち、税収総額では激減した。
  食品スーパーマーケットのマツヤ社長・小山光作さんを訪ねた。「消費税アップ分すべてお客負担、といくかどうか。晶質は維持し、量を減らす例がふえるかもしれません」
  「4キロ入りのパスタや50個入りのタマゴを買つていく。見ていると駐車場に仲間がいて、みんなで分けている。少しでも安く、と必死です」
  消費税が上がると消費は落ち込み経済の活力も失せていく。 世の中はそれで幸せになるか。小山さんの悩みは尽きない。