子どもとスポーツ 57
永井洋一
W杯惨敗報道≠フ影響は・・
「ねえコーチ、日本がW杯で負けたからサッカー協会会長が責任を取って辞めるんだよね」
騒ぎに違和感
先日、私が教えているサッカークラブの子どもがポツリと言いました。 W杯は子どもの関心事でもありますから、W杯関連の情報はいやが応でも子どもたちの目に触れ、耳に入ります。
また、直接に接しなくても、そうした情報に触れたおとなから、間接的に情報が伝わることもあります。
その中で、単純化された情報は、覚えやすいキーワードとともに、子どもたちの心の中に入り込んでいきます。
W杯で日本がグループリーグで敗退したことを受けて、今、メディアでは盛んに「惨敗」という言葉が便われ、また、その敗因追及の延長上で、川淵三郎・日本協会会長の辞任うんぬんも取りざたされています。
こうしたメディアの騒ぎに私は違和感を覚えるとともに、その情報の断片にいや応なく接することになる子どもたちへの影響が気になっています。
まず、日本は本当にW杯で「惨敗」したのでしょうか。
ブラジル戦の敗戦は、実力差から考えて妥当なもので、惨敗という表現は適切とはいえません。 クロアチアと.は引き分けでした。 オーストラリア戦の敗戦については、いろいろと議論が分かれるでしょうが、そのオーストラリア戦の敗戦一つを取り上げて、あたかもW杯の試合すべてが惨敗であったかのような表現で各メディアの論調が統一されているのは、いかがなものか、と思います。
また、川淵会長の貢任間題ですが、一国のサッカー協会の会長がW杯の勝敗一つによって辞任べきものなのか、私は疑間に思っています。
もちろん、W杯で代表チームを勝たせることはサッカー協会会長の重要な仕事の一つではありますが、そのほかにも少年世代の育成、女子サッカーの普及、審判のレベルアップなど、会長としてすべきことは多岐にわたります。
そもそも、日本代表が決勝トーナメントに進出してしかるべき実力があったのかどうかも、疑問の残ることです。
多角的情報で
ともあれ、今回のW杯について、今、私がここに述べたような、角度の変わった意見はなかなか伝わってきません。
どこを見ても「惨敗」と「解任」のオンパレードです。
日本のメディアの特徴でもありますが、何か事が起きると、恐ろしいほどに画一的な論調が横並びになります。 特にスポーツの報道は、しばしば極めて単純化され、扇動的な書葉で伝えられ.いてきます。.
本当に日本代表のたたかいぶりが惨敗だったのか、あるいは川淵会長が辞任ずべきか否かはともかく、子どもたちには、こうしてたれ流されてくる情報をうのみにするのではなく、できるだけ多角的な情報に触れて、自分の頭で考え、独自の意見を持てる環境を用意したいものです。
そんなことを考えているうちに、スポーツ欄では連日、オシム、オシムのオンパレードになってしまいました。
オシムに代表監督を受諾してもらいさえすれば、次のW杯には明るい期待が持てる、といったムードが演出されています。
私が教えている子どもたちも「オシムになればジーコの時より強くなるんでしょ」と言っています。
本当にメディアの影響力は怖いものです。
近年、メディアリテラシー(メディアの情報を主体的・批判的に読み解く力)という言葉が盛んに語られ、メディアから流される情報に対する子どもたちの接し方が考えられています。
しかし、いきなりメディァの情報を多角的に検証してみようといっても、子どもたちの興味関心を引くのは難しいと思います。
スポーツは、そのよい入り口になるのではないでしょうか。
ぜひ一家でW杯のことをいろいろな視点で語って見てください。
(スポーツ・ジャーナリスト)
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