収束へ専門的知見結集せよ  
     福島原発事故  政府の認識の甘さに危機感            

                     日本原子力技術協会最高顧問 石川迪夫(みちお)さん

 事故を起こした福島第1原子力発電所で炉心溶融(メルトダウン)の発表がありました。私は早い段階で溶融を断定していたので驚きはありません。むしろ、政府の認識の遅さ、甘さに重大な危機感を覚えます。  

 炉心の材料への塩分影響研究を

 現状で最も重要なことは、メルトダウンを起こし、今も高温状態にある炉心と、注入された海水の塩分が、原子炉内でどういう状態にあるのか、これを把握することです。日本原子力研究所などを動員し、塩分が炉心材料にどのような影響を与えているかなど、実験も含め研究が必要です。  
 事故の解決につながる事項については、根本で学問的考察を踏まえることが必要です。ところが菅政権は、専門的英知を結集してことに対処するという態度がありません。  
  炉心の冷却、固化が最も緊急の課題で、そのために水の循環システムをつくることが必要です。しかし、ひどく汚染された水を通せば、作業員の被ばくが問題となります。循環システムの確立には厳重な遮蔽(しゃへい)が課題です。
 破損した3基の原子炉が持つ放射能総量は、古い単位でいうとコバルト60に換算して十数億キュリーに達すると、旧原研OBたちは推定しています。そのわずか1%が混入したとして、冷却水が持つ放射能量は1千万キュリー、現在の単位では37京(兆の1万倍)ベクレルというとてつもなく恐ろしい量です。  

 大量塩分で腐食壊れやすくなる

 塩分が大量に入っているため、パイプや装置が腐食で壊れやすくなっており、いったん壊れると修復が難しいという課題もあります。循環システムができなければ、今の掛け流し冷却方式では汚染水を増やすため、外からの給水は永くは続けられません。  
 別の方法として、水を止めて一度炉心を溶かし、空冷とするやり方です。この場合、蒸発熱を利用し塩水を濃縮させ、崩壊熱の減衰を待ちながら不純物を混ぜ込み、炉心を凝固に導くという方法もありえます。これは予期せぬ事態も起こりうる方法であり、実験、研究、専門的知見の総動員に加え、実施時期の見極めが必要です。でも、放射能の流出に手をこまねいているわけにはいかないのです。  
 いまは放射能との「戦争」です。すぐれた総司令官とこれを補佐する参謀、指令に従って一糸乱れず動く「軍隊」が必要です。東電、日立、東芝の職員、協力会社の人々など専門技術家の集団が「軍」の中心になります。戦いのフィールド、原発と周辺地域では、放射線に対処する緊急時のルールが必要です。  
 政府の全面的なバックアップは必要ですが、指示は「放射線作業で人を殺すな」ということだけにして、進行状況について適宜報告を受けるようにしていただきたい。月日のかかる地道な作業できれいにしていくしかありません。政府は早く覚悟を決め、しっかりした体制を築いてほしいと思います。  
 私はいまもなお原子力発電を続けるべきだという立場ですが、事故収束へ専門的知見を結集するという点で、異なる立場の人とも協力を惜しみません。
                                      (聞き手・写真 中祖寅一)