放課後児童健全育成事業の今後について             文責 池田国昭

 0) 松本市の「放課後児童健全育成事業」の歴史
 
 松本市の学童保育の歴史は四半世紀以上に及ぶ。
  保育園での「延長保育」を学童に拡大した形で、市内の1つの学校を「モデル」として、学校の校舎内で市が始めた対策は、○○年前にさかのぼる。
  その後いわゆる「つくり運動」で、父母が中心になって公民館や民家のアパート、借家を借りて始めた学童クラブ、そうした運動の成果として「児童育成クラブ設置登録要綱」が定められ町会長、学校長、など地域の役員の組織=運営委員会への委託方式によって発足した「児童育成クラブ(学童クラブ)」、その後、児童センター内での留守家庭児童対策として行なわれた「登録児対策」、そして、児童育成クラブをセンター内で行なう「一本化」の方針、などの経過を経て今日に至っている。  
  国の施策も名称も含めて何回かの変遷を経て、「児童センター内へ一本化する。運営委員会方式は、センターが建設されるまでの経過措置」という時代を経て、小学校によっては、1小学校区に、登録児対策と学童クラブの2つの事業形態が認められ、その後児童福祉法の改正を経て、これらの2つの事業は、片や地域の運営委員会委託方式(学童クラブ)ともう一つ社会福祉協議会委託方式(センター内「登録児対策」)と委託先は違うが、事業としては同じ「放課後児童健全育成事業」として「認知」された経過があります。  
  その後も、「一本化の方針」は、引き継がれ、その結果、同じ「放課後児童健全育成事業」として、市内には大まかに言って、3タイプの放課後児童対策が行なわれている。
  現在まで残っている中で生まれた順に言うと

Aタイプ  つくり運動から始まり、「児童育成クラブ設置登録要綱」に基づき、地域の運営委員会方式で、行なわれている「学童クラブ」。(正式名称は、○○児童育成クラブ) 
Bタイプ  児童センター内で行なわれている「登録児対策」。
Cタイプ  「学童クラブ」が、児童センター内に入り「直営」で行なわれている事業。        
  (中山、岡田、並柳、筑摩)  

委託先と運営、保育料(利用料)については、
A:地域の運営委員会 おやつ代を含め12000円  6年生まで受けいれ
B:社会福祉協議会  おやつ代のみ徴収       3年生、または4年生まで
C:直営       おやつ代のみ徴収       6年生まで

 となっています。
  こうした経過をたどった背景には、 1つには行政がいつの場合でもこの事業に関しては後追いであった事。 ただ預かるだけの場所としてではなく、安全安心放課後をめぐって、遊びの場としてだけでなく、生活の場をどう保障するかの取り組みの結果でもありました。
  いく度もこの事業を、全児童対策と混同したり一本化しようとする施策からそれを守る運動の結果が、こうした形態を生む事になりました。 要は、より充実した施策の実施のための苦労の歴史でもあったわけです。

 1) 増え続けた「登録児」と財政難   今回の見直しの背景    

 今回の見直しの背景には、大きく2つの要素があります。
  それは、6月15日に、教育民生委員協議会に提出された協議資料に次のように記されています。

  「2、現状及び課題 1)留守家庭登録児童の急増により、現在の児童館・児童センターの規模では、 受入れができないところや本来の機能が果たせないところがでてきており、今後 も登録児童の増加が見込まれます。 2)学童クラブにおいても、老朽化した施設の建替えや移転問題が発生していま す。 3)児童館・児童センターでの放課後児童健全育成事業の実施は、遊びの場とし て利用する一般児童と生活の場として利用する登録児童が混在してしまい、お互 いに指導等の点で不十分な内容となっています。」

 先述したように、松本市は、昨年度まで1小学校区1事業=施設にこだわって、児童センターへの「1元化」の方針を掲げ、理解が得られたところから進める方針を進めてきました。
  「Aタイプ」のもともとない小学校区は、既に「登録児対策」として、一箇所で「問題」はなかったのですが、予想を超えて登録児が急増するという事態が生まれ、センターが狭隘となり、18歳までの子ども達の遊びの施設としての児童センターのもともとの役割も果たせなくなり、「増築」の必要が出てきました。
  寿の児童センターは、老朽化もあって増床の「建直し」の予算が2億円超、今年度組まれたのはそうした結果でした。
  しかし、既に他の児童センターでも登録児が急増する同じ事態が進行している中で、センター内で放課後対策を行なおうとすれば、かなりのセンターの建替えが必要となり、財政上でも大変なことが明らかになったからです。
  もう一つは、3)にあるように、「登録児」の急増ともあいまって、「遊びの場として利用する一般児童と生活の場として利用する登録児童が混在してしまい、お互いに指導等の点で不十分な内容」となったことです。  
 この点ははじめから予想されていたことであり、学童クラブの関係者が、児童センターへの「一本化」の方針に協力できなかったいわば一番の理由がこの点でした。  
  もともと違う役割の事業を同じ建物で行なうという無理があったわけです。  
  私たちのこの点を何度となく議会で指摘してきました。  
  今回の見直しのポイントは、財政上から来る要請も事実ですが、何よりも「一般児童対策」と「登録児対策」の各々違いう役割を認め、お互いの指導等の不十分さを解消するためという点が重要です。
  この間学童クラブの関係者の思いは、児童センターへの1元化事業では、留守家庭事業と全児童対策が混在する事になるということから、一本化には反対してきた経過がありますが、今回の「公設公営」の方針は、その点ではその懸念は解消され、さらに学童クラブの建物が老朽化していることもあり、学童関係者の願いにも1面合致するものでもありました。  
  こうした、長年の関係者の思いと主張が、実践を通じて証明されたということです。  
  そして、「センターへの一本化の方針」を見直し、子どもをめぐる不幸な事故の多発という子どもの放課後の安全・安心という情勢からの要請もあり、今回の「原則学校の敷地内」に、「公設公営」で放課後児童クラブを作り、センターとは分離して「放課後児童健全育成事業」を行う方針転換をしてきたわけです。    
  そして、この「公設公営」方針は、今後、施設の規模、保育料(利用料)、受け入れ児童の範囲、そして事業内容等に関しては、これから関係者の話し合いの中で決める事を前提に、議会で了承されました。  
  私たち日本共産党も、「有料化」の問題、「4年生まで」、「マンモス化」への対応、指導員の配置基準、保育の質の問題などに関しては、十分な話し合い、「納得と合意」の下に進める事を強く要望し、松本市の歴史の中で、初めて全面的に放課後児童健全育成事業を市の責任で行なうこの方針を評価し賛成しました。  
  又、こどもプランは、一言で言って、学校敷地内での「全児童対策」ですが、この子どもプランとも違う事を確認しました。

 2) 「5・6年生」と「5000円」が焦点に急浮上  予想された展開

 松本市は、こうした方針に基づいて、関係者との話し合いに早速入りました。
  まずは、代表者会を開催し、参加者から意見をいただき、市の考えを示し、ディスカッションを踏まえ、市の方針が固められましたが、それによると   概要 略)  
  しかし、既にこの時点から「5・6年問題」は、要望が出されていたことが、私たちの質問の結果、明らかになりましたが、市の方針には盛り込まれませんでした。  
  (議会答弁「       」 )
  次に、この原案に基づき、来年度建設を予定している3つの児童育成クラブ(学童クラブ)山辺、寿、旭町の運営委員会の関係者との話し合い、続いて父母会との話し合いを行ないました。  
  いくつか出された意見の中で、案の定「5・6年問題」が焦点となりました。 私たち日本共産党は、この点に関して、議会で、「受益者にはなんらかの負担をしてもらうというだけでは、今までと同じならば、なぜ有料化、5000円なのか。という反対の声が当然生まれて、納得はしてもらえないだろう。」とその点を指摘して、発言してきた経過が有りますが、そうした意味では子どもを実際に預けている保護者の皆さんにとっては、この点が一番切実なものの一つでした。  
  そして、こうした3つ話し合いが行なわれている中で、「和田まちかどトーク」での、健康福祉部長の「5000円の下方修正発言」そして引き続き行なわれた「中山まちかどトーク」での、「5・6年生受け入れ発言」という流れに軌道修正の方向が示されました。
   「市民の意向からずれない決定を行なう」という市長が替わってからの行政側の姿勢からすれば、ある意味、当然の結果であったといえます。  

  3) 今後の課題  

 れの変化は始まったばかりであり、今後解決しなければならない問題点という点からすれば、今回の「5000」「5・6年」の変化は、あくまで入り口にしかすぎません。
 実は、5・6問題と5,000円問題での合意を形成する過程そのものが、行政側も認めているように充実した生活の場としての放課後対策にとって、学童の良いところは取り入れていくという発言に見られるように、これを担ってきた学童の側皆さんからの願いと、今まで登録児対策としてこれにかかわってきた皆さんの願いが叶う新しい姿ををいかにして統一的に実現していくかが、最も重要な課題と考えます。  
  現在、おやつ代ののみで預かってもらえるセンターでの事業は、実際のところは、生活の場としての保障という点では、いくら指導員の方が努力しても大変な実態にあることは、1日でもセンターを見学すれば誰もが実感できるものです。
 あれだけの人員を限られた現在の指導員の皆さんでは見切れません。  
  センターの努力で、いわゆる異年齢集団としての保育が行なわれているところもありますが、そのほとんどは、登録された後の行動は、おやつの時間を除いていわば自由行動です。  
  母親クラブの方との協力で、さまざまな行事が行なわれていますが、そうしたときは集団行動となるものの、そのほかの時間は、その時間の過ごし方のほとんどが、その日任せとなっているのが実際のところです。
  一方、学童クラブでは、 それは、ほとんど毎日来る子どもたちが、フルタイム働く保護者の子ども達であり、ほとんど毎日同じメンバーが、グループ=班を作り、5・6年生の上級生が班長を勤め、集団行動を主に、夕方遅くまでですから、当然、家に買えるまでに宿題を終える必要も出てきます。
  センターの登録児の8割(?)近くが、その保護者がパート労働者で、夕方4時半から5時半ぐらいにお迎えに来るのとは違って、ほとんどの子どもは、6時過ぎまで、学童にいます。  そこでの事業は、文字どうり「保育」の中身が実践され、放課後の生活の場が、子ども達の異年齢集団として展開されている事に一番の特徴があります。  
  そして、そうした実践は、学校を離れて、キャンプなど遠足など、集団での活動となっています。  
  さらに、事業を支える意味で、父母会の役割が大きく、運営委員会方式とはいえ、実際の運営主体は、父母会の皆さんの努力で支えられ、資金不足では、バザーなどが必須の活動となっています。 このように、方や、父母会の活動がなく、時間的にも預ける時間で短い家庭は1時間ほどから、6時半過ぎまで、預けている父母の皆さんの要求・願いは、センターでの登録児対策の利用料が、無料、負担はおやつ代だけというのと、12000円父母活動つきというのとでは、これまでの実態からすれば、「5000円」問題からしても、(下方修正が予想されるが) それを今度は、同じ対策として統一するという事で、利用料を一律にするという事は、 もし「今までと中身が変わらなければ、何で有料化なんですか。」という声が、もう一方では、「今まで培ってきた保育の内容が保障されるのか。指導員が少なくなったらどうなるのか。今までの事業内容の質が低下するなら、仮に安くなるからといって、それの方が心配。」という声が出るのは当たり前です。
  5・6年問題もそうした中から当面の焦点として出てきたわけで、 こうしたことを背景にした皆さんの願いは、新しい発展した松本型の創造があって初めてかなえられる事と思います。
  実際には5・6年だけクリアーできればいいという事ではないというのが、学童関係者の実際の願いです。

 4) 今後の方向と事業の充実のために   

 これまで、放課後児童健全育成事業に関する運動は、行政への働きかけや独自の展開において、主に学童クラブ関係者が担ってきたのが実際でした。
  それは、これまでのこの事業の転機の局面や充実を求める運動が、議会や行政に寄せられている請願等の団体を見ても明らかです。
  しかし、ここへ来て、そうした運動は広がり、社会情勢の変化にともない、フルタイムで働く父母だけでなく、パート労働者を保護者に持つすべての家庭の皆さんの願いになりつつあるのが現状です。
  そうした意味では、学童保育側からだけのこれまでの要求運動ではなく、こうしたすべての皆さんの願いの実現という大きな基盤にたった運動が求められます。
  別な言葉で言えば、学童の願いだけ実現ということだけでは、関係者の意見がまとまらないばかりか、問題の正しい回答が得られないこと。
  そして、いろいろな矛盾を含んでのそれを解決する新しい段階に移れなくなってしまう。
  それは、それまでの形態をそのまま踏襲するだけでは、受け入れられないのと同じです。
  「今までの保育の質を維持するためには、12000円かけてもいいから、」という事では、そうした負担に耐えられない方は、除くという事になりかねません。
  松本市が、本来の行政としての役割を発揮し、「公設公営」という私たちが求めてきた方向に方針を転換した以上、働く人なら誰もが、安心して預けられる施設、放課後児童が文字どうりの安心な生活の場を確保できる施設と事業をともに築きかげるという観点が欠かせません。
  最初に見てきたように、松本市の放課後対策は、市民の父母の運動としては、止むに止まれぬ運動として展開されてきた経過があり、いわば、学童側から見る傾向が強く、そうした経験を踏まえての学童を実績を作り上げた経過を行政側に認知してもらう運動として発展してきた経過があるわけですが、これからは、全市民的にこの問題に取り組む事が必要です。
  それは、この放課後事業を「子育て支援策」として位置づける以上、市の責任で有料化せずに実施できる事にこした事はありません。
  しかし、保育園での保育料が有料である現在、そうした願いを一気に実現するには、あまりにも現在の段階では難しく、又実際に財政的に見て困難な状態です。
  しかし、負担はできるだけ、軽く、それは誰もが望むものです。
  そして、その負担の上で、できるだけのサービスを期待する。これは当然の事だと思います。

  5) 留意点

 今回の見直し方針の一番大事な点は、いわゆる留守家庭児童=放課後自宅に帰っても一人ないしはこどもだけで留守番をしなければならない児童を抱える家庭の保護者が、安心して働き続けられ、さらに子どもの「生活の場」をいかに保障されるか、 この目的に向かっての、松本市の3Kプランのひとつとしての子育て支援策として今までの経験を生かして、さらに発展的にこの事業を全市的に展開する事ができるか、生み出す事ができるか、そのための重要な取り組みが、松本市が公設公営で市の責任で展開するという方針が出された事により、知恵と力を発揮することになった点が、前進であり重要であることの確認が必要です。
  結局のところ、今までの学童の培ってきた実績が壊されるという事であきらめるのではなく、文字どうりの協働の取り組みで、さらにグレードアップされた松本型独自の事業を作り上げる努力が今ほど求められる時はありません。
  しかし、今はそうした視点からもう一つ上のステージに上げて、松本市での児童の放課後対策をどうするかという視点から、子ども達の「生活の場」と成長を保障するか。また何よりも子ども達の親たちが、文字通り安心して働き続けられるようにをテーマにここで新しい段階の松本市版の「放課後対策事業」をどう作り上げるかが大事になると思います。
  焦点となっていた「5000円問題」と「5・6年問題」は、あくまで入り口に過ぎない。
  これまで、独自の歴史と発展の経過をもつ松本市の「放課後対策対策」のこれまでの実績と経過を踏まえ、新しく生まれてきた現在の課題とこれまで未解決の課題とを包括的に捉え、さらに発展した形態に進化させて、いずれの問題をも解決を図ることが求められるし、その事が、市内の子どもや働き続ける親たちの皆さんの共通の願いとも合致するものと確信します。
  幸いにして、いままでの様な、行政からの一方的な上位下達がたでの事業展開でないことは、5000円と5・6年生問題の経過にもあきらかですし、それはこれまでの議会での理事者側の次のような答弁でも明らかです。
  「松本市の学童クラブの関係者と子供たちで培ってきたこれまでの実績、到達点を後退させることなくという一番基本的な考え方については、今回の修正案の前から、児童館、児童センターへ一本化の呼びかけをするときに、学童クラブですばらしいなと思うことについては、児童館、児童センター一本化したときにも、そういったものを取り入れていこうという基本的な考えがございまして、現在もそういった考えは基本に持っております。」 (今年9月議会 日本共産党の質問に対する健康福祉部長答弁)
  大事な事は、どうせやっても実現しっこないという事ではなく、最後まで私たちの願いを実現に向けて要求し続ける事ではないでしょうか。  
  それは、いわば学童クラブ側だけの願いではなく、今では子育て世代の保護者とすべての子ども達の願いであることに一番の要求の合理性があることに確信を持っていい中身です。  
  料金だけとっても、今まで「無料」だった人達、又「12000円」から値下げになる人達、いずれの人達にからも出される願いが「合力」となるこの運動は、必ずや新しい境地を切り開き、完全ではないにしても、新たな形態を生み出すものと確信します。  
  歴史は常にそうした形で、流れてきたし、幸いにして今の松本市の行政は、「市民が主役」、「願いが叶う」市政に向けての協働の営みが少しづつ歩みはじめています。  
  私たちとしても、あらかじめこうゆう形態があるべき姿、望ましい理想という事で示す事は控えますが、その形は自ずから、これまでの学童クラブ関係者の培ってきたものから明らかになるものと思います。  

 既に明らかにしてきますが、その際の大事な原則は3つあると考えます。 改めてそれを確認すると、

 1つは、 松本市の「放課後児童健全育成事業」(=「登録児対策」と学童クラブ)を担ってきた関係者と子供たちが培ってきたこれまでの実績、到達点を後退させることなく現在の問題点、課題を発展的に解消し、子供たちの健全育成、子育て支援策として、一歩でも二歩でも前進させる新しい取り組みとすること。

 2つ目、 そのためには、行政主導、すなわち上意下達、押しつけでなく、関係者のすべての皆さんの声を十二分に反映し、慎重かつ十分な話し合いを積み重ねながら、事業の位置づけを実施要綱などに明文化し、具体化を図ること。

 そして3番目に、 財政的には困難に見える課題であっても、子供たち、保護者、地域と行政の文字どおりの協働した取り組みの中で、常に問題の解決を図る努力を怠らないこと。       
  (9月議会本会議で、提案したものから、少し発展させてあります。)  

 私たち日本共産党は、そうした住民運動の力で、新しい放課後児童健全育成事業の展開・実現に向け力を尽くす事を表明します。   

                                                     以上

 (くどい部分が何箇所有りますが、お許しください。)