第17回 松本市平和祈念式典 菅谷昭市長式辞

  幾多の尊い犠牲を重ねて迎えたあの暑い夏から、67回目の夏が再び巡ってまいりました。
  本日ここに、ご来賓各位のご臨席、並びに、多くの市民の皆様ご参列のもと、第17回松本市平和祈念式典を挙行するにあたり、改めて、過去の悲惨な戦争の犠牲となり、今日の我が国の平穏と繁栄を築く礎となられました、数限りなき戦没者の方々の御霊に対し、謹んで哀悼の誠を捧げます。  
  戦後、我が国は、戦争による凄惨な廃墟の中から、更には深き悲嘆と絶望の淵から、祖国を愛する幾多の先人の皆様のたゆまぬご努力により、見事なまでに復興し、産業・経済の飛躍的な進展など、めざましい発展を遂げるとともに、国際社会においても、平和を希求する国家として、確固たる地位を占めるまでに成長を遂げてまいりました。
  また、松本市におきましても、戦後の苦難を乗り越え、豊かな自然の息吹に溢れ、古き歴史と伝統に育まれた、中信地域の基幹都市として発展を遂げてまいりました。
  これも偏に、苦節、幾星霜を歩まれ、ふるさと松本を愛するあまたの先人の皆様のご努力の賜物であり、ここに改めて深甚なる敬意を表する次第でございます。
  されど今なお、世界の各地では、民族・宗教問題や、経済格差に伴う貧困問題などにより、絶えることのない民族紛争や繰り返されるテロ行為、やむことのない人権抑圧など、極めて深刻で憂慮すべき事態が頻発しています。  
  また、いくつかの国々では、核兵器の開発が続けられ、テロリストによる核の脅威も、現実的な課題となってきております。
  さらにわが国においては、昨年3月の東日本大震災により発生した、福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染の脅威は様々な形で増大しつつあり、多くの皆さんが被災をされ、避難地等で昏迷と不安の中での生活を余儀なくされております。
  このような中で、世界で唯一の被爆国であり、加えて原子力発電所の大規模災害を経験している日本が、核兵器の廃絶や、核の平和利用のあり方等について、国際社会に向け訴えていくことが、今まさに私たちに課せられた使命であると確信するところであります。
  私は、昨年、地方都市では初めて松本市で開催いたしました「第23回国連軍縮会議」で、日本が現時点において「産業・経済」を優先するのか、あるいは「命」を優先するのかの二者択一の岐路に立っていることから、これまでの原子力政策を見直し、勇気をもって命を大切にする方向に向かうことが必要ではないか、との考えを述べさせていただきました。
  また、この会議では、高校生から80歳になる高齢の方々まで、市内外から多くの皆さんがボランティアとして積極的に会議にご参加いただいたこと、次代を担う中・高校生が自ら軍縮問題や、平和について考えることに取り組まれたこと、さらに、会議開催にあわせ市民主催の平和事業が数多く実施されたことから、「松本モデル」として極めて高い評価をいただきました。
  私は、去る7月下旬にベラルーシ共和国へ、チェルノブイリ原発事故後の現況調査及び情報収集のため足を運びました。
  一週間という限られた時間ではありましたが、チェルノブイリの事故から、26年の歳月が経過した今でも、汚染被害の続く大地に生きる人々の苦難に直面し、改めて原子力の平和利用について慎重に進めることが必要と感じた次第であります。
  そして、現地で見聞きしたことが、今後の福島第一原発事故の、様々な対応の参考になるのではないかと思っております。
  今日、戦争体験のない世代が漸次増加し、戦争が過去の出来事として語られてしまうことを危惧する中で、昨年の国連軍縮会議開催により高まった平和意識を、更なる新たな平和の連鎖の動きとして、今年もまた繋いでいくことが必要不可欠であると強く認識しております。
  そのための一つとして、本式典にもご臨席いただきました、外務省軍縮不拡散・科学部軍備管理軍縮課長の吉田謙介様に、本式典の終了後、あがたの森文化会館講堂におきまして開催される、 特別企画「松本市平和の集い」の中で、私たちは恒久平和のためにどのような行動をすべきか、お話いただくこととなっております。 
  また併せて、小学生の代表の皆さんから、「平和の詩」の朗読もございますので、多くの皆さまにご参加いただきますようお願い申し上げます。
  本日の式典では、例年同様に小中学生の皆さんを始め、ご遺族の方々まで、年代を超え、多くの市民の皆様が、永久なる平和への想いを込め、一羽一羽、丹念に折られた折鶴を、平和祈念碑に献呈されます。
  その折鶴と平和祈念碑を前に、私たち松本市民は、戦争の惨禍を後世への教訓として語り継ぎ、風化させることがあってはならないと、決意を新たにするとともに、今、市民一人一人が平和のために行動を起こすこと、平和の道を歩み続けることを、ここに改めてお誓い申しあげる次第です。  
  結びに、本式典の運営にあたられました実行委員会の皆様方に心から感謝を申しあげ、式辞といたします。

       平成24年8月15日      
                                           松本市長  菅谷 昭