スポーツサイト 代表監督選び 検証なしの危うい性急さ
代田幸弘
W杯が終わってもいないのに、日本サッカー協会は次の代表監督選びに走りだしています。
現時点では、Jリーグ・ジェフ千葉のオシム監督に白羽の矢を立て、マスコミも連日、交渉の行方を追いかけています。
早く指導者を決めて、4年後の南アフリカW杯にむけ、世界との差を少しでも縮めたいという協会の思いはわかります。
しかし、今大会の総括もろくにしないまま、監督人事だけを急ぐやり方には首をかしげます。
協会の川淵会長は、オシムに依頼した埋由を、「ジーコ監督の考え方をうけつぐ指導者として、ふさわしいと感じた」と話しました。
ジーコが日本代表監督に就任したのは2002年7月。それ以来、ジーコの指導法については、さまざまな論議がありました。「選手の自主性を尊重し、型にはめず自由を与えた」。
それにたいし、「もっと明確な戦術や決め事を示すべきだ」という反対意見も少なくありませんでした。 ジーコ自身も創造的なプレーの発揮を選手たちに求めてきました。
「サッカーは事務的作業ではないのだから、システムが幅を利かせ、選手以前にシステムありき、といったサッカーには、喜びや楽しみや幸福がない。あそこに動いて、あれをして、これをして、そしてここでおしまい。そんな監督の意思に従うためのサッカーなどしてはならない」(増島みどり著『ジーコ』)
チームに規律と統一を求めた前任のトルシエ監督とは対照的な指導法。
継続性のない百八十度の方向転換に、選手も戸惑いを感じたといいます。
ジーコが日本代表に残したものの検証は、今後のサッカー界」とっても重要です。
その中では、指導者の交代によって、急激に方向性が変わったことについての問題も、当然議論されるべきでしょう。
3大会連続でW杯の舞台をふんだ中田英寿は、ジーコのやり方を受け入れながらも、"過去"とのつながりをばっさりと切ってしまったことには批判的です。
「トルシエ監督で4年もかかって積み上げたものを、なぜジーコに代わった途端に崩してしまったのか。とくにDFに関しては、統率とか細かさといった点で日本によく合っていた、というよりも安定感はあったから、そこはしっかり残しておくべきだった」(同)
また、日本代表の取材に長くかかわるサッカー・ジャーナリストの大住良之さんも「トルシエまでの日本代表のサ.ッカーは、1本のライン上にのってきた。ところが、ジーコの指導はいままでの流れとは全然ちがうものだった。それが、強化にどうつながり、W杯でどう表れたのか、しっかり評価をしておかないといけない」と指摘します。
いくら、オシムの指導がジーコのそれと共通するものがあるとはいえ、まったく同じ色合いということはありえません。
いまの日本代表の特徴や課題をつかみ、強くしていくためにどんな指導が必要なのか その分析なしの監督決定は協会の怠慢といえるでしょう。
日本のスポーツ界では監督の地位は特別です。それは、世界では「コーチ」や「ヘッドコーチ」と呼ばれる指導者を、一段上のように「監督」として扱うことにも表れています。
監督の決めたことは絶対で、そのさい配や指導法に選手は無条件で従うという体質が色濃く残っています。
それだけに、監督選びには明確な指針と根拠をもって、慎重にならなければならないでしょう。
安易な選択によって、ふりまわされるのは選手たちです。
〔本紙スポーツ部〕
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