子どもとスポーツ(37)  「反則してもいいから」    永井洋一  

 わたしが指導している小学生のサッカーチームの秋の大会が終わりました。
  大会に参加するたびに少年スポーツの現状を嘆きたくなるような場面に遭遇します。

  ハーフタイムで

 自チームの5年生の試合を見ていたときです。
  5年生は小柄な子が多く、どの試合も劣勢になることが多いのですが、その試合ではみんながよく頑張って、均衡した試合になっていました。
  ハーフタイムを迎え、それぞれのチームの子どもたちがベンチに帰ってきます。
  相手チームの指導者の声が、こちらのベンチまで聞こえてきました。
 「オマエらさ、あんなプレーじゃだめだよ。危ないと思ったらさ、絶対に体をぶつけてでも止めろよ、反則してもいいからさ」
 その指導者は、ベンチに浅く腰かけ、足を前方に大きく投げ出した尊大な姿勢で子どもたちに対峙しています。
  子どもたちといえば、ハーフタイムだというのにベンチ前に立たされたまま、ろくに休ませてもらっていません。
  「反則してもいいから勝負に徹しろ」と指導された子どもたちは、これから先、いったいどういうスポーツ観を身に付けていくのでしょうか。
  また、そういう指導者の態度や姿勢を見て、「指導者とはかくあるべき」と思ってしまうのでしょうか。  
  6年生の試合ではこんなことがありました。
  チームは幸運にもリーグ戦を勝ち抜き、決勝トーナメントに進出しました。
  その決勝トーナメントで、攻撃の中心選手であるO君に、相手DFがひどい反則をしました。
  ボールを追って全力疾走しているO君の後方から、体を目がけて激しく体当たりしたのです。
  全力疾走の勢いに体当たりの力が加えられたO君の体は激しく前方に投げ出され、3bほど飛ばされてグラウンドに顔、胸を強くたたきつけられました。  
 その相手チームの特徴は、その場面に象徴されるような荒々しいプレーで、とにかくボールがきたらコントロールせずに力いっぱい、前方にけることを繰り返す。
  ボールの奪い合いの場面では反則すれすれの激しさで相手を圧倒します。
  そういうプレーを普段から徹底的に教え込まれているからこそ、そのDFの子も普段通りO君の体を激しく突き飛ばしたのでしょう。  
  しかし、それにしてもその時のプレーの乱暴さは目に余るものでした。
  Jリーグや国際試合なら、出場停止処分を受けてもやむを得ないような、悪質な反則でした。
  地面にたたきつけられ、痛みと苦しさにもだえ苦しむO君を見て、さすがに事の重大さに気付いたのでしょう、その子がO君の様子を見に近づいてきました。

 エース潰し成功  

 その時です。  
  「バカヤロー、どこへ行くんだ。おまえはいいんだよ。何やってんだ、自分のポジションに戻れ。次のプレーがあるんだ」
 相手チームの指導者の罵声が飛びました。
  相手のことなど気づかっている暇はない、すぐに次のポジションにつけ、試合はすぐに再開されるんだ、ということなのでしょう。
  この指導者にして、このプレーありなのです。
  結局O君はプレーを続けられず、検査のために病院に行きました。
  前半早々に攻撃の中心選手を失った自チームは1―2で惜敗しました。
  相手チームの「エース潰し」はまんまと成功したのです。
 わたしたちコーチ陣は暗たんたる気持ちになりましたが、一筋の光明もありました。
  O君と交代出場したS君が、とてもいいプレーをしてチームに貢献したのです。
  S君はずっとスタメンではなかったのですが、コーチ陣が常に出場の機会を与えて経験をつませていました。
  その成果が出たのです。  
  S君が、O君の代わりに立派にプレーしてくれたことが何よりの救いでした。