第14回 松本市平和祈念式典での 菅谷市長の式辞

  幾多の尊い犠牲を重ねたあの暑い夏から、今年も64回目の夏が再び巡ってまいりました。
  本日ここに、ご来賓各位のご臨席と、多くの市民の皆様のご参列のもと、第14回松本市平和祈念式典を挙行するにあたり、改めて、過去の悲惨な戦争の犠牲となり、今日の我が国の平穏と繁栄を築く礎となられました戦没者の方々の御霊に対し、謹んで哀悼の誠を捧げます。
 
  戦後、我が国は、戦争による廃墟の中から、そして悲嘆と絶望の淵から、祖国を愛する幾多の先人の皆様のたゆまぬご努力により不死鳥のごとくよみがえり、産業・経済の飛躍的な進展など、めざましい発展を遂げるとともに、国際社会においても、平和を希求する国家として、確固たる地位を占めるまでに成長を遂げてまいりました。
  また、松本市におきましても、戦後の苦難を乗り越え、豊かな自然の息吹に溢れ、古き歴史と伝統に育まれた、中信地域の基幹都市として発展を遂げてまいったわけでございまして、これも偏に、苦節、星霜を歩まれ、ふるさと松本を愛するあまたの先人の皆様のご努力の賜物であり、ここに改めて深甚なる敬意を表するとともに、心から感謝を申しあげる次第でございます。
 
  さて、世界は今、民族ならびに宗教問題や、経済格差に伴う貧困問題などにより、海外の各地で、絶えることのない民族紛争や繰り返されるテロ行為、やむことのない人権抑圧など、極めて深刻で憂慮すべき事態が頻発し、口惜しきかな、未だ世界平和への道のりの遠さを、憤懣やるかたなく実感せざるを得ない状況にあります。   
  わが国は、世界で唯一の被爆国であり、平和の尊さ、核兵器の悲惨さを世界中のどの国よりも強烈に自覚する国として、広島と長崎の惨劇を長しえに伝え続けるとともに、平和の架け橋を未来へ築き、若者たちの心に平和の灯をともし続けていく責務を負っております。

 そんな中、本年4月に、北朝鮮が朝夜の衝撃のごとく突如として地下核実験を行いました。これは、国際社会の平和のついこうを著しく阻害する行為であり、到底許されるものではなく、平和を切に願い、核廃絶を求める地球市民の一人として、強い憤りを覚えます。
  核廃絶に関しましては、この4月、アメリカ合衆国のオバマ大統領が、チェコの首都プラハにおいて、核兵器を使用した唯一の保有国としての道義的責任に触れ、「核兵器のない、平和で安全な世界をアメリカが明確に追求していくことを宣言する」との演説を行いました。
  これは、世界の核に大きな影響力を持つ超大国のリーダーが、核廃絶の先頭に立つ姿勢を強く示した事象であり、大変意義あるものでございました。

 私事で恐縮ではございますが、かつて平成8年から5年半にわたりベラルーシ共和国において、チェルノブイリ原子力発電所の事故で被曝し、汚染大地に生きながらも甲状腺がんに苦しむ幼き子ども達の治療にあたり、核による放射の被害の恐ろしさや悲惨さを目の当たりにしてきた私にとりましても、ことの外、勇気づけられたところでございました。
 
  私たち松本市民は、平和を希求する崇高な意思を世界に向けて発信するため、昭和61年に、平和都市宣言を行って以来、広島平和記念式典への中学生代表の参加、日本非核宣言自治体協議会や、平和市長会議への参加などを通じて、平和行政の推進に積極的に取り組んできております。
  特に、今年は去る8月8日に、「第13回戦争遺跡保存全国シンポジウム松本大会」が松本市で開催され、私も地元市長として挨拶をしてまいりました。 松本市には、信州大学キャンパス内の歩兵50連隊の赤レンガ建物や、 中山、里山辺の旧軍事工場跡など、貴重な戦争遺跡が残されており、これらの遺跡について、行政としても、現地調査を行い調査報告書を作成するなど、全国の自治体の中でも先駆的な取組みをしてきております。
  この大会を通じ、改めて戦争の悲惨さについて考えさせられ、二度とあのような悲劇を繰り返してはならないと、決意を新たにした次第でございます。

 また、松本市では平成8年に、洞澤今朝夫先生制作による平和祈念碑 「平和の誓い」の前で、第1回の松本市平和祈念式典を挙行して以来、毎年8月15日に、この平和祈念碑の下で平和祈念式典を開催し、大勢の市民の皆様とともに世界の恒久平和を祈念してきており、今年もまた、この地におきまして、平和祈念式典を開催いたします。
 本日は、毎年8月6日に開催される広島平和記念式典へ参加し、被爆者の体験談などを通じ、戦争の恐ろしさ、空しさ、そして、平和の尊さを直に体験していただいた市内中学生の代表の皆さんや、次代を担う多くの若者たちにも参加いただいており、大変心強く思う次第でございます。
 そして、今年は特に、会場内に核兵器の一日も早い廃絶を願い、広島平和資料館からお借りした原爆ポスターを展示しておりますので、お集まりの皆さんには是非ご覧をいただき、核廃絶への思いを強くしていただければと思います。

  さて、この後、小中学生の皆さんを始め、ご遺族の方々まで、年代を超え、多くの市民の皆様が、永久なる平和への想いを込め、一羽一羽、丹念に折られた折鶴が、広島から贈られた「被曝アオギリ」のもと、平和祈念碑に献呈されます。 その折鶴と平和祈念碑を前に、私たち松本市民は、戦争の惨禍を後世への教訓として語り継ぎ、決して風化させることがあってはならないと、決意を新たにするとともに、地道ではあっても、踏みとどまることなく、次なる平和への道を歩み続けることを、改めてここにお誓い申しあげます。  

 結びに、本式典の運営にあたられました実行委員会の皆様方に心から感謝を申しあげ、式辞といたします。

         平成21年8月15日      
                                        松本市長  菅谷昭